著者
雉子波 晶 杉本 誠忠 酒本 隆太 鈴木 智也
出版者
一般社団法人 日本金融・証券計量・工学学会
雑誌
ジャフィー・ジャーナル (ISSN:24344702)
巻号頁・発行日
vol.20, pp.22-40, 2022 (Released:2022-06-08)
参考文献数
35

本研究は,外国為替証拠金取引業務におけるロールオーバー戦略について検討した.一般に実務においては流動性の観点より,受渡し日が短いトゥモローネクストでロールオーバーするのが一般的である.しかし理論的には金利のタームプレミアムを考慮すると,1週間や3週間など長期のフォワード取引を活用することにより受取りスワップポイントの上乗せを期待できる.しかし稀に短期のスワップ金利が急騰する場合があり,その際に長期フォワード取引を選択していれば高いスワップポイントを逃してしまう.そこで我々は機械学習によって長期のフォワード取引を積極的に選ぶべきタイミングを検出し,短期のトゥモローネクストおよびより長期のフォワード取引を組み合わせた混合戦略を提案する.このタイミングは,対象通貨における為替相場のみならず,株式・債券・商品先物など様々な要因が非線形的に影響すると考えられる.またフォワードレートは一般的にカバー付き金利平価説によって定式化できるが,突発的な政治経済情勢などの変化によって,現実のフォワードレートは理論値から乖離する可能性がある(Du et al. (2018a)).その結果,タームプレミアムの逆転現象(短期と長期のフォワード取引から得られるスワップ金利の逆転現象)も実際に度々観測される.本研究ではこのような状況を踏まえ,理論値からの乖離に影響を与えうる要因を説明変数とし,機械学習によって適切なフォワード期間を選択するための判別モデルを構築した.教師データとして過去の最適解を学習し,その後の判別を行った結果,約70%の正答率を実現できた.さらに獲得したスワップポイントのリスクリターン比によれば,我々の混合戦略は長期のフォワード取引と同等の安定性を維持したまま,短期のトゥモローネクストと同等の収益性を実現できた.