著者
吉岡 俊人 青山 のぞみ
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.38-47, 2015 (Released:2017-06-09)
参考文献数
18

約200種ある水田雑草のおよそ2割は,山地や湿地の希少植物に比べても,とりわけ絶滅の危険度率が高いことが報告されている.この衝撃的な事実に接しても,身近なはずのある雑草が地球上から失われてしまうというような,切迫した危機感は持ちにくいかもしれない.アゼオトギリ(Hypericum oliganthum)は,その名のとおり,関東以西の水田畔に生えるオトギリソウ科の雑草である.この植物は,以前は,やや少ないながらも普通に見られたが,2000年の環境省調査では全国で約800個体のみの生存とされ,絶滅危惧IB類に指定された.福井県では,2008年に日本最大規模の個体群が発見されたが,用水パイプライン化工事の影響で,2010年には当時の2割弱の自生株数となった.ヒトが引き起こす生きものの危機ならば,人に生きもののことを知ってもらう他は,それを守る手立てはないだろう.ここでは,これまでまとまった知見がなかったアゼオトギリの植物像が初めて詳述される.本稿によって,アゼオトギリやその生育環境の保全に対する理解が進むことが期待される.