著者
伊藤 操子
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.6, pp.32-39, 2014 (Released:2017-06-09)
参考文献数
21
被引用文献数
1

セイバンモロコシ(ジョンソングラス)は地中海原産の大型イネ科多年草で,熱帯から温帯までの広い気候範囲に分布し,世界中の農耕地,非農耕地で強害雑草となっている.日本では外来雑草として,関東以西に多く発生し,とくに九州の中・北部では河川や道路沿い等に大群落を形成しているが,東北地方での存在も報告されている.輸入飼料への種子の混入が確認されており,畜産団地あるいは上流に畜産施設があるところで発生が多く観察される.河川敷や道路沿いに大発生が目立つので,種子が水に流されたり交通の風圧で飛散して拡散することが推察される.根茎断片も繁殖体となる.本草のバイオマスは生体重で15~25t/haとクズやセイタカアワダチソウよりもかなり多く,刈草の焼却・運搬のコストや環境負荷も無視できない.花粉症の原因になることも知られており,純群落を形成するので生態系の他生物への影響も甚大と予想される.このように日本の都市・市街地における重要雑草であるにもかかわらず,日本における拡散実態や生活史等に関する情報は乏しく,環境省の「要注意外来植物」リスト44種にも入っていない(2014年現在).したがって,本稿では生育・繁殖特性や遺伝的多様性等も紹介しているが,それは主に国外の報告をもとにしたものである.
著者
浅井 元朗
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.16-30, 2018 (Released:2019-02-01)
参考文献数
4

農耕地および緑地雑草の管理者に必要な素養とは,現場においてさまざまな生育段階にある雑草のすがたかたちを識別し,その生活様式―いきざま―を見きわめ,その地(地域と立地環境)での生態が頭に入っている状態,あるいは初見の草種についても同様のことが識別,類推できることである.雑草は生育環境や季節,生育段階などによってそのみかけが変化するため,種ごとの変化や変異の幅を含めて理解する必要がある.また,管理法(耕起,刈取,除草剤処理等)の種類やその時期・頻度の違いによってその場に生育できる種類が大きく異なる.それらを念頭において,出現草種を識別し,管理に対する反応を予測することが重要である.身近な雑草を識別し,その特性を調べるための基本的な技法として,1)採集・標本の作成,栽培およびデジタル画像の収集の利点と留意点,2)学名および分類体系の理解に基づいた科,属の単位での特徴把握,3)幼植物が掲載されている等,有用な雑草図鑑類の特長と目的に応じた活用法,4)Web資料の特長と利用などについて具体的に解説した.
著者
吉岡 俊人 青山 のぞみ
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.7, pp.38-47, 2015 (Released:2017-06-09)
参考文献数
18

約200種ある水田雑草のおよそ2割は,山地や湿地の希少植物に比べても,とりわけ絶滅の危険度率が高いことが報告されている.この衝撃的な事実に接しても,身近なはずのある雑草が地球上から失われてしまうというような,切迫した危機感は持ちにくいかもしれない.アゼオトギリ(Hypericum oliganthum)は,その名のとおり,関東以西の水田畔に生えるオトギリソウ科の雑草である.この植物は,以前は,やや少ないながらも普通に見られたが,2000年の環境省調査では全国で約800個体のみの生存とされ,絶滅危惧IB類に指定された.福井県では,2008年に日本最大規模の個体群が発見されたが,用水パイプライン化工事の影響で,2010年には当時の2割弱の自生株数となった.ヒトが引き起こす生きものの危機ならば,人に生きもののことを知ってもらう他は,それを守る手立てはないだろう.ここでは,これまでまとまった知見がなかったアゼオトギリの植物像が初めて詳述される.本稿によって,アゼオトギリやその生育環境の保全に対する理解が進むことが期待される.
著者
芝池 博幸
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.64-72, 2016 (Released:2017-05-31)
参考文献数
36

「セイヨウタンポポ」の学名は「Taraxacum officinale Weber ex F.H. Wigg.」と表記されることが一般的である。しかし、「外来性タンポポ種群」として「Taraxacum officinale agg.」が用いられる場合もある。この場合、命名者の位置にあるagg.は何を意味しているのだろうか。agg.はセイヨウタンポポが倍数性や無融合生殖によって、形態的に識別が困難な種の複合体(species aggregate)であることを意味している。学名を見ているだけでも、セイヨウタンポポが興味深い特性を持っていることがうかがえる。本稿では、日本列島におけるセイヨウタンポポの侵入・定着・交雑の過程を理解するために、タンポポ属植物の分類や生活史、生殖様式等について解説する。そして、重点的に対策すべき外来種という観点から、外来性タンポポ種群による遺伝的攪乱の問題を指摘する。 <引用文献の差し替え> 「渡邉弘晴 2013. タンポポ 風でたねをとばす植物. あかね書房, 東京.」として引用した文献は、「小田英智・久保秀一 2009. 自然の観察辞典② タンポポ観察辞典. 偕成社, 東京.」と差し替えをお願いします(著者)。
著者
伊藤 幹二
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.12-27, 2016 (Released:2017-05-31)
参考文献数
11

雑草を化学薬剤で防除するという技術は,明治政府の近代化施策の一つとして欧米から「雑草と戦う学問」として導入された,しかし,日本においては,有害生物を化学的に制御するという考えが定着することはなかった.戦後,連合国軍総司令部(GHQ)の日本における占領政策によって初めて雑草や害虫を化学的に防除するという技術が紹介された.雑草防除を科学として扱い発展してきた欧米の先端除草剤の紹介は,それまでの労力を媒体とする除草法によって制約されていた日本の小農業栽培を大きく転換する技術として捉えられた.除草剤による雑草防除技術は,模倣、改良,国産化と変化しながら発展し,除草労力の軽減と労働生産性(一人当たりの作付面積の拡大)の著しい改善をもたらすことになる.一方,現在の除草剤の利用は,今日の農業就業人口の減少と高齢化のもとでの農園芸栽培を可能にしているものの,本来の使用目的である生産コストの削減,言い換えれば栽培技術の向上や経済的利益追求のための資材として機能していない現状がある.今私たちに必要なことは,生活圏における雑草害と環境的・経済的損失を認識し,除草剤をはじめ機械やマルチなど雑草防除技術を適切に利用した雑草の最良管理慣行を策定することである.
著者
伊藤 操子
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.8, pp.3-11, 2016 (Released:2017-05-31)
参考文献数
16

除草剤の存在は世界の食糧生産を支える上で不可欠だが,生活圏の雑草問題である衛生被害の回避,環境保全,インフラ保護にとっても重要である.しかし,未だに除草剤への拒否反応がはびこる日本の現状に鑑み,今日あるような除草剤がなぜ生まれ,科学・技術としてどう発達し,現在どういう段階にあるのか,世界の流れを振り返る.化学物質で雑草を撲滅するという発想は19世紀中頃から始まり,手取りや機械で防除できない多年草に大量の無機物質の投与が試みられた.一方,本格的な除草剤の発展は,1940年代初頭の選択的有機除草剤2,4-Dから始まった.これは世界の雑草防除自体のありようを一変させた画期的出来事である.その後1080年代にかけて,作物―雑草間の選択性の追求,新規作用点の開発,低処理薬量・低残留性,新規剤型の開発等が世界的に進展し,効果,作物や環境に対する安全性において優れた多くの除草剤が生まれた.しかし,その後徐々に縮小されて今日に至っている.理由は,除草剤のマーケットが成熟し,既剤を上回るものを開発しにくい,安全性試験へのコストの増大,グルホサート抵抗性遺伝子組換え作物の普及で,対抗できるインセンテイブが低下したなどである.化学的防除の著しい発展は,他方で,雑草防除実施者が創意工夫の意思の喪失,簡単に成果が期待できるという思い込みを生んだ.その最も顕著なしっぺ返しは,未だに止むことのない世界的な除草剤抵抗性雑草の増加である.
著者
小西 真衣
出版者
特定非営利活動法人 緑地雑草科学研究所
雑誌
草と緑 (ISSN:21858977)
巻号頁・発行日
vol.2, pp.29-35, 2010 (Released:2017-06-30)
参考文献数
14

セイタカアワダチソウが分布を急速に広げたのは戦後であり、その分布は人間生活圏の周囲に集中している。種子は非常に小さく軽く風で飛ばされ、根茎は地下の浅いところに水平方向に張り巡らされている。純群落の地上部は、高密度でバイオマスが大きく、相対照度が非常に小さいので他の草が入り込むことは不可能となる。ロゼットで越冬し、越冬ロゼットは4月に入ると急速に伸長する。種子からの生育は遅いため、速やかに地下部を発達させロゼットを形成し翌春の生長に備えることが、群落を形成・維持するうえで非常に重要である。刈り取りの効果には、時期によって異なる光合成産物の振り分け先が関係する。1970年代には本種の有害性や、時には善悪についての「セイタカアワダチソウ論争」ともいえる大論争が起こったが、この騒ぎがきっかけとなり多くの自治体で問題雑草の対策を義務付けるようになり市街地の雑草繁茂状況がかなり改善されたのである。