著者
青山 俊之
出版者
社会言語科学会
雑誌
社会言語科学 (ISSN:13443909)
巻号頁・発行日
vol.23, no.2, pp.19-34, 2021-03-31 (Released:2021-05-29)
参考文献数
40

本稿は,日本社会において「自己責任」ということばが使用される記号過程とその再帰的な転送過程を自己責任ディスコースとする.本稿の分析は,2015年1月から2月にかけて起きたISIS(Islamic State of Iraq and Syria)日本人人質事件の人質に対し,批判的に言及したブログ記事とその記事上のコメントを対象とする.分析対象の記事とコメントでは,「自己責任」と「迷惑」という語彙が際立って使用された.本稿では,ブログ参与者による記事とコメントの詩的連鎖により,自己責任ディスコースに対する記号イデオロギーが生成されることを論じる.分析では,人質への批判的言及に介在する主体に対する連続的な認識枠組み(個人‒社会文化‒ヒト)に焦点を当てる.分析によって,自己責任ディスコースを再生産する歴史的状況に文化的規範としての社会関係的立場・役割規範が関係することを論じる.