著者
青山 博樹
出版者
一般社団法人 日本考古学協会
雑誌
日本考古学 (ISSN:13408488)
巻号頁・発行日
vol.11, no.18, pp.73-92, 2004-11-01 (Released:2009-02-16)
参考文献数
250

おもに前期古墳から出土する底部穿孔壺は,何を目的に古墳上におかれ,どのような祭祀が行われたのか。小論は底部穿孔壺を用いた古墳祭祀を俎上にあげ,その意味の解釈を試みる。まず底部穿孔壷祭式の変遷をあとづけ,その原形が底部の打ち欠かれた少数の装飾壺が古墳上におかれるというものであることを明らかにする。次に,東アジアの稲作地帯に分布する農耕儀礼のあり方に着目し,種籾を貯蔵する壺に穀霊が宿るという信仰がさまざまな形で広く分布していることを確認する。そしてこれと同様の思想が弥生時代以降の日本列島にも存在していた可能性を考え,壺が穀霊信仰にもとづく農耕儀礼と密接な関係にある遺物であることを推測する。壺が用いられた葬送祭祀は,これを破砕もしくは穿孔することで壺に宿ると観念された穀霊を後継者へ継承することを目的とし,その被葬者は農耕司祭者としての性格をもっていたのではないかということを指摘する。