著者
田村 淳 入野 彰夫 勝山 輝男 青砥 航次 奥津 昌哉
出版者
日本生態学会
雑誌
保全生態学研究 (ISSN:13424327)
巻号頁・発行日
vol.16, no.2, pp.195-203, 2011-11-30

ニホンジカにより退行した丹沢山地の冷温帯自然林において、植生保護柵(以下、柵)による神奈川県絶滅危惧種(以下、希少植物)の保護効果を評価するために、9地区62基で希少植物の有無と個体数を調べた。また、希少植物の出現に影響する要因を検討した。その結果、合計20種の希少植物を確認した。そのうちの15種は『神奈川県レッドデータ生物調査報告書2006』においてシカの採食を減少要因とする希少植物であった。一方、柵外では6種の希少植物の確認にとどまった。これらの結果から、丹沢山地の柵は希少植物の保護に効果を発揮していると考えられた。しかし、ノビネチドリなど10種は1地区1基の柵からのみ出現して、そのうち8種の個体数は10個体未満であった。このことから環境のゆらぎや人口学的確率性により地域絶滅する可能性もある。継続的な柵の維持管理と個体数のモニタリングが必要である。また、各地区の柵内で出現した希少植物の種数を目的変数として、柵数、柵面積、標高、その地区の希少植物フロラの種数を説明変数として単回帰分析したところ、希少植物の種数は希少植物フロラの種数と正の強い相関があった。この結果から、希少植物を保護ないし回復させるためには希少植物のホットスポットに柵を設置することが有効であり、希少植物の分布と位置情報を事前に押さえておくことが重要であると結論した。