著者
韓 臨麟 福島 正義
出版者
特定非営利活動法人 日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.59, no.2, pp.228-235, 2016 (Released:2016-05-06)
参考文献数
36

緒言 : わが国におけるフッ化物配合歯磨剤の普及率が9割に達している現在, フッ化物の効果をより確実なものにするための研究が進められている. 最近では, 機能化されたリン酸三カルシウム (fTCP) とフッ化物を配合した歯磨剤が販売されている. 本研究は, この歯磨剤の機能的効果を解明するため, 歯質耐酸性, 象牙細管の封鎖性および元素の取り込みなどについて検討を行った. 材料および方法 : フッ化物と機能化されたfTCPを同時配合した歯磨剤 : Clinpro toothpaste (3M ESPE, USA, 以下, クリンプロ歯磨剤) を実験に用いた. また, 口腔環境のシミュレーションとして人工唾液を用いた. 実験にはヒト新鮮抜去歯を用いた. クリンプロ歯磨剤を用いて, 抜去歯のエナメル質面に1, 4週あるいは8週間の処理を行った後, 乳酸脱灰液にて脱灰させ, EDTA滴定法による脱灰中のカルシウム含有量を測定した (n=5). また, ヒト抜去歯の歯根試片を用いて人工象牙質知覚過敏症試片を作製し, クリンプロ歯磨剤による1, 4週あるいは8週間 (n=5) の処理をそれぞれ行った. これら試片について, 走査電子顕微鏡で処理面の微細構造的観察を行った. さらに, 各処理期間の試片について, 開口象牙細管の封鎖率を算出した. 一方, 実験方法の2) に準じて, クリンプロ歯磨剤を1, 4週あるいは8週間処理した根面象牙質試片 (各n=3) について波長分散型マイクロアナライザーを用いて, Ca, F, Pの検索を行った. 結果 : クリンプロ歯磨剤未処理の対照試片と比べて, 1週間処理した試片ではCa2+溶出量の減少を示し, また, 4週間あるいは8週間処理し続けた場合, Ca2+溶出値はさらに低下していた. また, クリンプロ歯磨剤処理1, 4週あるいは8週間後の象牙質面試片では, 処理期間が長いほど封鎖された象牙細管の数が増加していた. さらに, クリンプロ歯磨剤処理の象牙質界面部におけるCa, PおよびFの取り込みは, 処理期間の長い試片ほど深く浸透していたことが認められた. 考察 : クリンプロ歯磨剤の処理により, 象牙細管開口径の狭窄化や封鎖などが観察されたことにより, 本剤の象牙質知覚過敏症の抑制効果が期待できるものと考えられる. また, クリンプロ歯磨剤処理後では, エナメル質脱灰量の減少やF, CaあるいはPが硬組織に取り込まれたことから, 歯質強化効果が示唆され, う蝕進行抑制に寄与することが期待される.
著者
韓 臨麟 砂田 賢 岡本 明 福島 正義 興地 隆史
出版者
特定非営利法人日本歯科保存学会
雑誌
日本歯科保存学雑誌 (ISSN:03872343)
巻号頁・発行日
vol.51, no.6, pp.614-621, 2008-12-31
被引用文献数
2

エナメル質亀裂(以下:亀裂)は外傷による歯の破折の最も軽度な変化であるとともに,明確な外傷既往のない歯においてもしばしば観察される一方,エナメル質内に限局した歯冠長軸にほぼ平行に走行する複数の微細な亀裂がよく観察される.この種の亀裂は,二次う蝕・歯の審美障害・歯の破折・歯髄疾患などのさまざまな病態の誘因になりうると考えられるものの,その成因や発生頻度の詳細についていまだ不明の点が多い.本研究では,この種の亀裂の発生頻度や随伴する臨床症状について調査を行った.残存歯20本以上の外来患者80名(10代後半から80代までの各年齢層について各10名,ただし,80代の被験者の残存歯は,平均16.5本であった)を調査対象とし,診療用ライトによる照明下で歯鏡,歯科診療用ルーペ,コンポジットレジン重合用光照射器などの器具を用いて,亀裂の程度,修復物の有無と種類,および冷刺激に対する誘発痛の有無を診査した.亀裂の程度については,肉眼で容易に確認できる場合をレベルC,ルーペによる拡大視で確認できた亀裂をレベルB,光照射器で光を当てた状態で拡大視下で確認できた場合をレベルAとした.また,誘発痛に関しては,スリーウェイシリンジを用いて亀裂歯に冷気を当てて診査した.その結果,亀裂の検出率は年齢とともに上昇傾向を示し,50代以後では100%の被験歯に亀裂が確認できた.また,10代〜30代の被験者では,コンポジットレジンあるいはメタルインレー修復歯が非修復歯と比較して高い亀裂検出率を示す傾向がみられた.さらに,若年者では亀裂は主としてレベルAに分類されたが,加齢に伴ってレベルB,次いでレベルCの亀裂の割合が増加した.一方,冷刺激による誘発痛は,20代〜60代の被験者では亀裂歯の13.0〜16.7%に認められたが,その検出率に年齢による明瞭な相違はみられなかった.以上より,エナメル質亀裂が年齢とともに進展を示すことが明確に確認されるとともに,その発生ないし進行要因として修復処置が関連する可能性が示唆された.また,エナメル質亀裂が象牙質知覚過敏症様の症状発現に関連する可能性も推察されたが,この種の症状と亀裂の程度との明瞭な関連はみられなかった.