著者
須佐 寅三郎
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.5, no.2, pp.194-221, 1934

本縣苹果在植品種の缺點と栽植上の缺陷から品種改良並に自家,他家交配研究の必要を感じ,昭和三年より繼績的に實驗を重ね.其内昭和四年より同八年迄の成績の概要を述べると次の如くである。<br> 1. 本縣主要苹果の花期は五月中旬より約三週間に亙る。印度が最も早く,國光が最も遲い。其期間は該年の花期好天なる時は短かく各品種の盛花期相接近する。之れに反し花期に低温又は降雨績く時は著しく其花期延長し各品種の盛花期を離す。同花期の良晶種を混植の要がある。<br> 2. 108品種中花粉の不良なるもの25種,中庸なるもの23種,花粉の發芽率60%以上を示すもの60種ある事が分つた。<br> 3. 雌蕋の雄蕋に對する長短と花粉能力又は受精との關係は未だ認めない。<br> 4. 花粉管放長の方向は性的親和力に影響を受くる事著しく強い。<br> 5. 苹果の花粉は攝氏13度内外の低温に於ても良く發芽す。<br> 6. 花粉管が伸長したる時降雨あれば著しき破裂現象を招來す。之れは受精作用に影響甚大なる事を推察す。<br> 7. 苹果の花粉は粉状乾燥状態にて貯藏すれば1ケ年以上發芽するものがある。<br> 8. 自家交配で自家不稔性の品種10種,弱自家結實性のもの9種,自家結實性と認め得るもの9種あつた。就中,主要品種では祝では殆んど自家不稔性で. 22%, 國光は稍自家結實性で3.07%, 紅玉は8.5%, 印度は10.05% なるが,ゴールドンヂリシヤスは16%, イングラムは33.16% の自家結實性ある事が分つた。之に反しデリシヤスは完全に自家不稔性である必す,紅玉,印度又はゴールドンデリシヤス,祝等と混植するを要すう。<br> 9. 他家交配25品種の平均結果率は22.76%で,自家交配28種平均結果率5.08% に比し約4倍半の結果率である。混植の必要が顯著である。<br> 10. 花時天候惡しき年に於ても他家交配試驗は顯著なる好結果を示した。故に花時寒濕なる氣候續く時は出來る丈人土交配を行ふか,又は花粉の媒介者昆蟲の集合を計る爲め果園の乾燥と氣温を高める事が有效であると思ふ。<br> 11. 他家交配に於て兩性器關が完全であ場合は相互嫌忌性は未だ判然と認められない。然し近親間に於ては相互嫌忌性があるかも知れない。<br> 12. 他家不結實は兩性機關が不能性であるか,何れか一方が不能的である場合に起るのが多いと思はれる。