著者
水野 貴行 中根 理沙 貝塚 隆史 石川(高野) 祐子 立澤 文見 井上 栄一 岩科 司
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.3, pp.237-245, 2020 (Released:2020-09-30)
参考文献数
35

赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’(Allium fistulosum ‘Hitachi-benikko’)は地下部の葉鞘が鮮やかな赤色を呈する長ネギで,茨城県北 部城里町(旧桂村)圷(あくつ)地区で栽培される地方野菜から育成された.本研究では,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,地下部のアントシアニンとフラボノールを同定するとともに,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定し,抗酸化食品としての有用性を調査した.その結果として,赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ のアントシアニンとフラボノールについては,1種類の新規化合物(Cyanidin 3-O-(3″-O-acetyl-6″-O-malonyl)-glucoside)を含む4種類のアントシアニンと5種類のフラボノールを単離し,化学および分光分析により同定した.新規のアントシアニンは ‘ひたち紅っこ’ の地下部における主要アントシアニンであった.フラボノールについては,単離した4種類がいずれもQuercetinを基本骨格としていた.また,総ポリフェノール量と抗酸化能を測定した結果,赤色の地下部は,‘ひたち紅っこ’ の地上部や,白ネギ品種の地上部および地下部と比べて,高い総ポリフェノール量と抗酸化能(H-ORAC)の値を示した.これらの結果は赤ネギ品種 ‘ひたち紅っこ’ において,食品の機能性の面から付加価値を与えると考えられる.
著者
松本 和浩 李 忠峴 千 種弼 金 泰日 田村 文男 田辺 賢二 黄 龍洙
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.7, no.2, pp.293-297, 2008 (Released:2008-04-25)
参考文献数
10
被引用文献数
4 4

韓国産イチゴ品種‘Mae-hyang’,‘Seol-hyang’および‘Keum-hyang’と‘章姫’を4℃または20℃で4日間貯蔵し,果肉硬度,可溶性固形物濃度,滴定酸度,アントシアニン濃度および糖組成の品種間差異を調査した.各品種の糖組成をみると‘Mae-hyang’および‘Keum-hyang’はスクロースが,‘Seol-hyang’および‘章姫’はフルクトースとグルコースが主体であった.また糖蓄積型ごとに各貯蔵温度における糖組成の変化が異なることが明らかになった.低温貯蔵によりいずれの品種も果肉硬度が上昇したが,特に‘Mae-hyang’において顕著であった.また,‘Mae-hyang’は貯蔵温度にかかわらず酸含量および糖酸比の変化が少なく,20℃貯蔵区における総可溶性糖含量の低下も他品種比べ少なく,安定した貯蔵品質を示した.一方,‘Seol-hyang’は他品種に比べ20℃貯蔵区において酸含量の上昇と糖酸比の低下が起こりやすかった.また,‘Keum-hyang’はいずれの貯蔵区でもアントシアニン濃度が高く,4℃貯蔵区でも糖含量の低下がみられた.これらの結果より,‘Mae-hyang’が他の韓国産新品種に比べ貯蔵中の硬度と品質を保ちやすい長期貯蔵に適した品種であると認められた.
著者
岡 一郎 末 紀夫 高橋 久幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.3, no.2, pp.149-154, 2004 (Released:2008-03-15)
参考文献数
15
被引用文献数
1 5

トマトの毛管式水耕栽培において,標準培養液に人工海水塩を添加して,塩類処理が果実の糖度と重量に及ぼす影響を調査した. 3段摘心栽培では,培養液のECが高く推移した区ほど糖度は高く,糖度と果実重量には負の相関が認められた.標準液に2000 ppmの塩類を添加した培養液で栽培を始め,第3花房開花期から標準液補給に変えて培養液のECを低下させた区では,目標に近いBrix 8.5~9.7の糖度が確保でき,全期間塩類を添加処理した区に比べて,果実重量の低下もやや抑えることができた. 8段摘心栽培では,培養液の窒素濃度を高め,さらに塩類を加えてEC 6 dS・m−1で栽培した区で第1果房からほぼ目標糖度に達し,塩類のみでECを高めた処理区に比べて,上段果房での果実重量の低下も避けることができた.
著者
佐藤 守 阿部 和博 菊永 英寿 高田 大輔 田野井 慶太朗 大槻 勤 村松 康行
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.84, no.4, pp.295-304, 2015 (Released:2015-10-22)
参考文献数
17
被引用文献数
3 19

モモ[Prunus persica(L.)Batsch]とカキ(Diospyros kaki Thunb.)を供試し,福島第一原子力発電所事故の放射性降下物により休眠期汚染された落葉果樹に対する高圧洗浄機を用いた樹皮洗浄による放射性セシウムの除染効果を検証した.夏季洗浄処理として 18 年生モモ‘あかつき’を供試し,2011 年 7 月 5 日と 27 日の 2 回にわたり,樹皮洗浄処理を実施した.休眠期洗浄処理として 2011 年 12 月 21 日に 30 年生カキ‘蜂屋’,2012 年 1 月 24 日に 7 年生モモ‘川中島白桃’を供試し,樹皮洗浄処理を加えた.高圧洗浄処理によりカキではほぼ全ての粗皮がはく離したが,モモの表皮はほとんどはく離しなかった.2011 年夏季に洗浄処理されたモモ‘あかつき’の果実中 137Cs 濃度は洗浄による有意差は認められなかった.2011 年から 2012 年の冬季に洗浄処理されたモモ‘川中島白桃’の葉および果実中 137Cs 濃度は洗浄により有意に減少した.同様にカキ‘蜂屋’でも洗浄処理翌年の葉および果実中 137Cs 濃度は洗浄により有意に減少した.これらの対照的な結果と矛盾しない現象として,汚染された樹皮洗浄液による二次汚染および樹皮からの追加的汚染の可能性について考察を加えた.
著者
小笠原 悠 市村 一雄 福永 哲也 永田 晶彦 井上 守
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.4, pp.577-583, 2012 (Released:2012-12-28)
参考文献数
26
被引用文献数
2

日本国内の生花店では,水揚げの促進を目的として‘水切り’作業を行っているが,切り花を取り扱う際の大きな負担になっている.実際に水切りを行っている生花店の割合とその効果に関するアンケート調査を行ったところ,62%の生花店で水切りは行われており,72%の生花店では水切りに品質保持の効果があると考えていた.次に,キク,バラ,ユリ,トルコギキョウ,ガーベラ,ストックおよびアルストロメリアを乾燥により水分を損失させた後,生体重の回復と品質保持期間に及ぼす水切り処理の影響を調べた.その結果,水切りによりキクとガーベラ切り花のみは生体重の回復が促進された.しかし,他の品目では有意に促進される効果はなかった.また,どの品目においても,水切りにより品質保持期間が長くはならなかった.以上の結果から,‘水切り’が切り花の水揚げと品質保持に及ぼす効果は極めて限定的であることが明らかになった.
著者
加古 哲也 持田 耕平 中務 明 小林 伸雄
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.339-347, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
21

日本固有の多年草であるトウテイラン(オオバコ科クワガタソウ属,絶滅危惧II類)について,隠岐諸島における自生状況の調査を行い,さらに自生個体に由来する実生を栽培し,園芸的観点から評価を行った.隠岐諸島内の幅広い環境に分布する本種には,草姿,花器形質,開花期に多様性が確認された.その草姿および花器形質の多様性を活用し,切花,鉢花,苗物など幅広い用途に利用可能であることが示唆された.花色についても従来の青紫色に加え,白色,紫色の個体が見いだされ,育種素材として活用することで花色の幅の拡大が期待される.また,開花期間の異なる個体を利用することで長期間にわたり生産,観賞できることが示唆された.地域特産遺伝資源であるトウテイランの特性を活かした今後の新品種の育成,生産方法の確立を通じ,日本原産の新規花き品目としての活用が期待される.
著者
Md. Fuad Mondal Md. Asaduzzaman Makoto Ueno Mikiko Kawaguchi Shozo Yano Takuya Ban Hideyuki Tanaka Toshiki Asao
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
pp.MI-113, (Released:2016-04-23)
被引用文献数
19

The consumption of vegetables and fruits rich in potassium (K), such as melons and strawberries, is restricted in chronic kidney disease (CKD) patients. Therefore, we attempted to produce low-K strawberry fruits through management of a KNO3 fertilizer in nutrient solution from anthesis to the harvest period. A general trend of decreasing K content in fruit was observed with the decrease of KNO3 concentration in the nutrient solution. Among four strawberry cultivars, the fruit of the ‘Toyonoka’ exhibited a K reduction of about 64% when plants were grown in nutrient solution with KNO3 at 1/16 of the normal level. Citric acid and ascorbic acid contents of ‘Toyonoka’ fruit were reduced with decreasing KNO3 concentrations in the nutrient solution. Although the reduced NO3− of the nutrient solution was adjusted by using Ca(NO3)2 to obtain low-K strawberries, growth, yield and quality did not vary with this adjustment. Compared with the typical level of K in strawberry fruit of 170 mg/100 g FW (Standard Tables of Food Composition in Japan, 2011), a 23.5% decrease (130 mg/100 g FW) in K was found in 1/32 level of KNO3. The K contents of plant parts suggested that the low KNO3 level was responsible for the low K absorption, which may have affected the translocation and accumulation of K into fruit. Therefore, 1/32 level of KNO3 in nutrient solution lowers the fruit K content considerably.
著者
小原 香 坂本 由佳里 長谷川 治美 河塚 寛 坂本 宏司 早田 保義
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学会雑誌 (ISSN:00137626)
巻号頁・発行日
vol.75, no.3, pp.267-269, 2006 (Released:2006-05-22)
参考文献数
8
被引用文献数
5 18

香草のコリアンダー (Coriandrum sativum L.) の異なる成長期における器官別香気成分の変動を検討した.コリアンダーの幼苗期の葉部と茎部のにおいは極めて類似しており,高いパターン類似率を示した.しかしながら,幼苗期の葉茎部と成熟期の葉茎部のパターン類似率は低下し,さらに,幼苗期から成熟期へと成長が進むに従い,葉と茎部の香気は異なるようになり,そのパターン類似率も著しく低下した.また,果実と他の器官におけるパターン類似率の低下は顕著であった.茎葉部の主要香気成分は,油っぽい,甘い,草様の香りを有する decanal, (E)-2-decenal, (E)-2-undecenal, 2-dodecenal, (E)-2-tetradecenal の 5 成分であり,種子にはほとんど含まれていなかった.また,種子の特徴的香気成分は,花様の爽やかな香りを有する linalool や α-pinene, γ-terpinene, D-camphor, geraniol の 5 成分であり,茎葉部にはほとんど含まれていなかった.茎葉部では,成長が進むに従い,heptanal, (E)-2-hexenal や octanal の様な青いフレッシュな香気が減少する傾向があり,生茎葉を香草として使用する場合は,コリアンダー特有の青臭い香りだけでなく,フレッシュな香気を併せ持つ幼苗期の茎葉部が適していると判断された.
著者
島田 智人 柴﨑 茜 前島 秀明 浅野 亘
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.22, no.3, pp.207-215, 2023 (Released:2023-09-30)
参考文献数
26

ニホンナシ花粉の国内自給率向上のため,花粉採取効率を向上させる技術を検討した.腋花芽利用品種における樹形は,低樹高で主枝先端を隣接樹にジョイント接ぎ木する低樹高ジョイント仕立てが,直線的な樹形であることや,花蕾採取作業に脚立を要さないことなどから,立木仕立ておよび,棚仕立てより時間当たり花蕾採取量が多く,採取効率が向上した.また,低樹高ジョイント仕立ては,株仕立てや,低樹高でジョイント接ぎ木を行わない場合より,中庸な新梢の発生が多く,樹列当たりの花芽数が多くなることが明らかになった.採取方法は,選択採取より一斉採取が,3分咲きや7分咲きより5分咲きでの採取が,時間当たり純花粉採取量および花粉発芽率の点で効率的であることが明らかになった.また,‘新興’における5種の植物成長調節剤の効果を検討したところ,ジベレリン生合成阻害剤であるダミノジッド,パクロブトラゾール,およびエチレン活性剤であるエテホンの処理が,腋花芽着生率に有効であることが確認された.
著者
小林 達 澤田 歩 葛西 智 後藤 聡 松本 和浩 工藤 智
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.3, pp.287-294, 2021 (Released:2021-09-30)
参考文献数
34
被引用文献数
1

近年のリンゴ開花期間における低温傾向に対応するため,10°Cの低温条件でも発芽が可能で,主力品種 ‘ふじ’ に対する人工受粉用花粉として適する品種を選定した.まず,受粉専用品種を含む全26品種を対象とし,10, 15および20°Cの各条件における花粉発芽率を調査した結果,10°Cにおける発芽率は ‘ふじ’ を除くと2か年とも ‘はるか’ が最も高く,‘王林’ が最も低かった.次に,‘はるか’ および ‘王林’ の他,10°Cでの花粉発芽率が高かった品種のうち,広く生産され花粉を獲得しやすい ‘シナノゴールド’ を加えた3品種について,10または20°C条件でそれぞれの花粉を ‘ふじ’ の花に受粉した.その結果,‘はるか’ および ‘シナノゴールド’ の花粉の場合は両条件とも高い結実率を示したのに対し,‘王林’ の花粉の場合,10°C条件では20°C条件に比較して明らかに低かった.また,50花当たりの花粉重量は,これら3品種の中で ‘王林’ が最も少なかった.さらに,3品種のいずれの花粉を受粉しても,‘ふじ’ の果実形質および果実品質に差はないことを確認した.以上より,‘はるか’ および ‘シナノゴールド’ の花粉は低温発芽性を有し,花粉量も多いことから,低温条件下の ‘ふじ’ に対する人工受粉用の花粉として有望であると考えられ,現在一般的に使用されている ‘王林’ よりも優れた特性を有することが明らかとなった.
著者
望月 佑哉 目黒 亜依 福岡 亜友 宮下 智人 Worarad Kanjana 井上 栄一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.4, pp.463-468, 2021 (Released:2021-12-31)
参考文献数
19

ブルーベリー果実の出荷期間を延長することを目的とし,まず,房取り収穫が可能な新系統HoSp-S65G-13の貯蔵特性を既存品種と比較した.次いで,収穫方法の違いが収穫後の果実品質に及ぼす影響について房取り収穫と個別収穫した果実を貯蔵して調査した.その結果,HoSp-S65G-13はハイブッシュブルーベリーの ‘Chandler’ およびラビットアイブルーベリーの ‘Tifblue’ と同等の貯蔵性を持つことが明らかになった.房取り収穫した果実の重量減少率は個別収穫のそれと比較し,貯蔵後2週目から有意に低かった.一方で,Brix値および酸度には収穫方法間で有意差はみられなかった.さらに,房取り収穫は貯蔵期間中の果実の腐敗発生を抑制した.貯蔵5か月後の果実を用いて官能試験を行ったところ,房取り収穫した果実は輸入生果と比較して同等であった.一方で,個別収穫した果実の評価は輸入生果と比較して有意に低かった.従って,ブルーベリー果実の房取り収穫は果実の重量減少および腐敗発生を抑制したことから,房取り収穫したブルーベリーを長期貯蔵することで出荷期間を延長できる可能性があることが示唆された.
著者
草塲 新之助 松岡 かおり 阿部 和博 味戸 裕幸 安部 充 佐久間 宣昭 斎藤 祐一 志村 浩雄 木方 展治 平岡 潔志
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
The Horticulture Journal (ISSN:21890102)
巻号頁・発行日
vol.85, no.1, pp.30-36, 2016 (Released:2016-01-23)
参考文献数
12
被引用文献数
3

東日本大震災に伴う東京電力福島第一原子力発電所事故により放出され樹園地に降下した放射性セシウムについて,リンゴ園における地表面管理の違いが土壌および果実における放射性セシウムの蓄積に与える影響を,福島県において 2011 年から 4 年間にわたり調査した.地表面管理は,清耕区,中耕区,中耕+堆肥施用区,草生区,ゼオライト散布区とした.土壌の放射性セシウム濃度は上層ほど高く,表層土(0~5 cm)では,有意差は認められないものの草生区のみが 2011 年と比較して 2014 年に濃度が上昇した.中層土(5~15 cm)では,中耕を伴う処理区の濃度が他の処理区よりも高くなった.樹冠下地表面の雑草,落ち葉等の有機物に含まれる単位面積あたりの放射性セシウム量は草生区で最も高く,中耕を伴う処理区で低かった.果実の放射性セシウム濃度は,いずれの処理区においても 4 年間にわたり指数関数的に減少した.また,果実の濃度に堆肥施用の影響は認められなかった.果実と土壌の放射性セシウム濃度が連動していないことから,試験地に降下した放射性セシウムのレベルでは,少なくとも事故発生後 4 年間は,中耕,草生管理,堆肥施用などの地表面管理は,リンゴ果実の放射性セシウム濃度に影響を与えないことが示唆された.
著者
藤島 宏之 松田 和也 牛島 孝策 矢羽田 第二郎 白石 美樹夫 千々和 浩幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.11, no.3, pp.405-410, 2012 (Released:2012-09-30)
参考文献数
19
被引用文献数
2 3

同一着果条件下において,ブドウ‘巨峰’のジベレリン処理果実(無核果実)とジベレリン無処理果実(有核果実)の品質の差異について調査した.無核果実は着色開始が早いものの,その後の着色の進行や糖度の上昇程度,酸含量の減少程度は,有核果実の方が優れる傾向にあった.収穫期では,果皮色は年次により変動したが,糖度は無核果実で低かった.同一新梢内では,無核果実で果粒重が軽くなり果皮色や糖度が低下した.同一花穂内では,無核果実で果皮色が劣った.有核,無核にかかわらず,果皮色,糖度とも果房重が重いほど低下し,特に無核果実では糖度の低下が顕著であった.
著者
文室 政彦
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.451-459, 2011 (Released:2011-11-19)
参考文献数
30
被引用文献数
2 3

マンゴー‘アーウィン’と‘愛紅’の自根苗を生産する目的で,取り木発根に及ぼす諸要因を調査するとともに,‘アーウィン’と‘愛紅’を含む17品種を供試して,取り木発根能の品種間差異を検討した.環状はく皮部の噴霧処理に使用するオーキシンの種類として,2品種ともNAAはIBAより発根率が高い傾向がみられたが,発根数および総発根長には有意差がなかった.一方,オーキシン処理を行わないと全く発根しなかった.NAA濃度としては,2品種とも発根率および総発根長が1,000 ppmより2,000 ppmで優れていたことから,発根に好適なNAA濃度は2,000 ppmと考えられた.NAAの追処理を行うと発根率が低下する傾向がみられ,‘アーウィン’では発根数および総発根長が低下した.ABAの添加は‘アーウィン’の発根に,形成層除去および発根培地の水分含有率は,‘愛紅’の発根に影響しなかった.2品種とも枝齢は発根に影響しなかったが,多着葉新梢は少着葉新梢よりも発根率が高い傾向がみられ,発根数および総発根長が高かった.2品種とも取り木適期は7~8月であると考えられた.取り木発根能の品種間差異では,‘スピリットオブ76’が最も高く,次いで,‘愛紅’,‘アーウィン’,‘コム’および‘グレン’であり,‘センセーション’,‘ゴールデンリペンス’および‘ドット’はやや低く,‘リペンス’,‘トミーアトキンス’,‘フロリジェン’および‘バレンシャプライド’は低く,‘アルフォンソ’,‘エドワード’,‘フロリゴン’,‘キョサワイ’および‘ナムドクマイ’は全く発根しなかった.
著者
笈田 幸治 松井 元子 大場 将生 村元 由佳利 大谷 貴美子 本杉 日野
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.16, no.3, pp.287-293, 2017 (Released:2017-09-30)
参考文献数
18
被引用文献数
1

ブドウ‘シャインマスカット’は皮ごと食べるブドウとして販売されているが,その食べやすさは無核化処理や灌水などの栽培条件によって異なる.皮ごと食べやすさを向上させるため,満開期における25 ppm GA3に加用するCPPU処理濃度の違いが,果粒の物性,剥皮厚および皮ごと食べたときの官能評価に及ぼす影響について検討した.試験区としてCPPUの無処理,2 ppm,5 ppmおよび10 ppm区の4試験区を設定した.果粒の物性分析の結果,無処理と2 ppm区との間に差はみられなかったが,5 ppmおよび10 ppm区では無処理および2 ppm区よりも初めの嚙みきり時に果粒の歪みが大きく,咀しゃく中の皮切れが悪い品質であると評価された.また,果粒の剥皮厚は無処理と2 ppm区との間に差はみられなかったが,処理濃度が高くなるに従って大きくなった.果粒を皮ごと食べたときの官能評価の結果,10 ppm区での評価は他の試験区に比べて低く,これは物性分析の結果と一致していた.また,5 ppm区では10 ppm区ほど大きな差はなかったが,無処理および2 ppm区よりも官能評価は低い傾向がみられた.以上のことから,満開期におけるCPPUの5 ppmおよび10 ppm濃度処理は‘シャインマスカット’果粒の皮ごと食べやすさを大きく損なうことが明らかとなった.
著者
宮城 淳 家壽多 正樹 日坂 弘行 本居 聡子 若生 忠幸
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.10, no.2, pp.273-282, 2011 (Released:2011-05-18)
参考文献数
23
被引用文献数
1 2

一般消費者(833名)および外食産業(143店舗)を対象に,食味に着目したネギの嗜好性調査を行った.一般消費者を対象にした調査では,生ネギでは香りは「強い」方が,煮ネギでは「甘み」は強く「柔らかい」方が,焼きネギでは「甘み」が強い方が好まれた.一方,生ネギの「辛み」,焼きネギの「硬さ」は,属性(性別,年齢層)によって嗜好性は異なった.外食産業を対象にした調査では,「辛み」は弱い方が,「甘み」は強い方が好まれたが,「香り」および「硬さ」は,外食産業によって嗜好性が異なった.重視する項目では,外食産業によらず,「鮮度」「国内産であること」を重視する店舗割合が高かった.また,「懐石・和食料理店」では,「味」,「香り」を重視する傾向があったが,その他の外食産業では価格,外観(長さや太さ)を重視する傾向が強かった.ネギに対する要望では,「懐石・和食料理店」では,特徴あるネギ品種の開発を望む声が多かったのに対し,その他の外食産業では,外観・形状の改善や価格安定,品質安定などを望む声が多かった.これらの調査結果は,ニーズにあったネギの販売戦略やネギ品種の開発の一助になると考えられた.
著者
新谷 勝広 秋山 友了 雨宮 秀仁 竹腰 優 佐藤 明子 太田 佳宏 三宅 正則
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.19, no.4, pp.417-422, 2020 (Released:2020-12-31)
参考文献数
25

山梨県における早生の主要品種である ‘日川白鳳’ に替わる品種の育成を目的に交雑を実施し, ‘甲斐トウ果17’ を育成した.‘甲斐トウ果17’ の収穫始め期は ‘日川白鳳’ とほぼ同時期である.果実重は298 gとなり, ‘日川白鳳’ と同程度の大きさとなる.果汁は対照品種と同様に多であった.核割れの発生はかなり少なく, ‘日川白鳳’ より栽培しやすいと考えられる.果皮の着色の型は,一様に着色しやすいべた状である.成熟に伴う果肉硬度の推移は収穫始め日が2.4 kgであり,日数の経過とともに低下し,2016年は16日後に2.0 kg,2017年は18日後に1.9 kgとなった.収穫後オーキシン処理した果実の果肉硬度は処理9日後には0.4 kgとなり,エチレン生成量は処理1日後より急激に増加した.DNAマーカーにより肉質の確認を行ったところ,硬肉モモであることが明らかとなった.これまで知られている硬肉モモは,成熟が進んでも果肉が硬く,普通モモとはまったく異なる食感を有している.遺伝的に硬肉モモでありながら果肉が柔らかくなる品種についての報告は ‘甲斐トウ果17’ 以外にない.‘甲斐トウ果17’ は ‘日川白鳳’ およびその後に成熟する品種の代替え品種としての普及が期待される.
著者
松本 雄一 丸田 沙織 駒場 あすか 柘植 圭介 渡邉 啓一
出版者
一般社団法人 園芸学会
雑誌
園芸学研究 (ISSN:13472658)
巻号頁・発行日
vol.20, no.2, pp.217-223, 2021 (Released:2021-06-30)
参考文献数
30
被引用文献数
1

血糖値の上昇抑制などの機能が期待されるイヌリンを豊富に含むキクイモについて,収穫期間中のイヌリンおよびカリウム含量の推移について調査を行い,収量の推移と併せてイヌリン含量が高くかつカリウム含量が低くなる収穫適期を検討した.イヌリン含量は11月から12月にかけて急激に減少した.一方カリウムは11月から1月にかけて増加傾向にあった.これらの結果から,九州地域におけるキクイモの収穫適期は11月上旬など収穫始めの時期と考えられた.また,収穫後の貯蔵方法について検討を行った結果,低温貯蔵ではイヌリン含量の低下を抑制できないものの,カリウム含量の増加は抑制できた.このことから,低温貯蔵はキクイモ消費時のカリウム摂取量の抑制のためには有効と考えられた.