著者
頼 海元
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.26-63, 1972
被引用文献数
1

ヘビの毒牙に関しては1765年Fontanaがオウシュウクサリヘビの毒牙について構造形態を観察して以来, 多くの研究者が各種ヘビを材料として毒牙の形態, 組織学的構造ならびに発生学的観察をなしている。しかし従来の研究は断片的な, 非常に簡単な観察がほとんどであるために, 不明な点が非常に多いのが現状である。とくに顎の中における各発育段階の毒牙歯胚相互の位置関係ならびに歯堤との関連性は非常に複雑である。その上, 歯堤は発生初期に毒腺原基との関連が強いために, 一層複雑な形成過程をえて歯堤形態が完成されてゆく。<BR>以上のことから, この論文では歯に関する比較発生学的研究の一端として, 日本産のマムシ毒牙を研究の対象として研究を行なったものである。マムシ卵生期における種々の発育段階における胎児ならびに成体を材料として用い, 成体の一部については乾燥頭骨標本を作成し, 歯と顎骨の関係, 毒牙の形態について肉眼的観察を行なうとともに, 双眼実体顕微鏡を用いて軟組織を除去しつつ機能歯, 後続歯胚群の相互位置関係, それらの配列状態ならびに歯胚の発育状態について観察を行なった。成体の毒牙については各部位の横断ならびに縦断研磨標本を作製し, 組織学的構造について観察を行なった。各胎児ならびに成体の材料については各種断面の連続切片を作製し, 各種染色をほどこして歯堤及び毒牙歯胚の形成過程, 歯堤と歯胚の位置関係ならびにそれらの発育経過など, 組織学的ならびに組織発生学的観察を行なったものである。