著者
松木 教夫
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.333-362, 1971
被引用文献数
2

補綴的処置に伴なう患者の音声の変化を聴覚的に検査する方法として, 国際音声記号を基本として, これに更に詳細な注を付すことによって音の歪等を忠実に表記する方法を試みた。<BR>検査用語は (1) 語音100個を全く任意の順番に配列したもの (R法) , (2) 語音100個を50音図の順に従って配列したもの (O法) , (3) 単語200個, (4) 文章1種類とした。<BR>検者は国際音声記号の表記法についてとくに訓練された3名の言語治療士で, 被検者の音声の録音を繰返し聴取してから表記を行ない, これを原表と照合して不正音について検討を行なった。<BR>全部床義歯患者38名について上記の方法で検査を行なったところ, 次のような結果が得られた。なお, 検査時期は, 語音の検査では, (1) 術前, (2) 義歯装着直後, (3) 義歯装着30日後の3時点, 単語及び文章の検査では (1) 術前, (2) 義歯装着30日後の2時点とした。<BR>また, 被検者を (1) 術前に旧全部床義歯を装着していた者 (経験者群) と (2) 義歯を使用せず無歯顎であった者 (未経験者群) の2群に分けて検討した。<BR>語音の検査における明瞭度 (正解音数率) を見ると, いずれの時点でもR法の方が0法よりも低い。また, 経験者群では明瞭度の変動は比較的少ないが, 未経験者群では術前の明瞭度が著明に低く, 義歯装着直後, 30日後に明瞭度は上昇し有意差が認められた。<BR>語音の検査における不正音を子音別にみると, R法では経験者群, 未経験者群ともに多くの子音に分散してみられたが, 0法では, 全体の不正音はR法の場合よりも少なく, 特定の時点, 音に集中してより多くの不正音がみられた。とくに未経験者群の術前で [s] , [dz] , [∫] , [t∫] , [d〓] に不正音が多かったが, 義歯装着後には急激に減少してゆく。<BR>子音の調音点別にまとめてみると, R法では全体に不正音がみられるが, 0法によると未経験者群の術前で, 歯音, 歯茎音の不正音が多く, 義歯装着後には著明に減少していた。硬口蓋音では, 義歯装着後に経験者群も未経験者群もほぼ同程度の不正音がみられた。また, 軟口蓋音では義歯装着直後に一時的に不正音が増加していた。<BR>単語を用いた検査では, 語音のO法より更に全体の不正音は少ないが, 未経験者群の術前では [s] , [ts] , [∫] , [t∫] などの限られた音に不正音がみられた。また, 子音の前後の音の調音点別の組合わせによる影響を検討したが一定の傾向はみられなかった。<BR>文章を用いた検査では, 単語の場合よりも更に全体の不正音は少なくなり, 特定の時点, 音に集中していた。また, 前後の音の種類による影響も認められなかった。
著者
頼 海元
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.26-63, 1972
被引用文献数
1

ヘビの毒牙に関しては1765年Fontanaがオウシュウクサリヘビの毒牙について構造形態を観察して以来, 多くの研究者が各種ヘビを材料として毒牙の形態, 組織学的構造ならびに発生学的観察をなしている。しかし従来の研究は断片的な, 非常に簡単な観察がほとんどであるために, 不明な点が非常に多いのが現状である。とくに顎の中における各発育段階の毒牙歯胚相互の位置関係ならびに歯堤との関連性は非常に複雑である。その上, 歯堤は発生初期に毒腺原基との関連が強いために, 一層複雑な形成過程をえて歯堤形態が完成されてゆく。<BR>以上のことから, この論文では歯に関する比較発生学的研究の一端として, 日本産のマムシ毒牙を研究の対象として研究を行なったものである。マムシ卵生期における種々の発育段階における胎児ならびに成体を材料として用い, 成体の一部については乾燥頭骨標本を作成し, 歯と顎骨の関係, 毒牙の形態について肉眼的観察を行なうとともに, 双眼実体顕微鏡を用いて軟組織を除去しつつ機能歯, 後続歯胚群の相互位置関係, それらの配列状態ならびに歯胚の発育状態について観察を行なった。成体の毒牙については各部位の横断ならびに縦断研磨標本を作製し, 組織学的構造について観察を行なった。各胎児ならびに成体の材料については各種断面の連続切片を作製し, 各種染色をほどこして歯堤及び毒牙歯胚の形成過程, 歯堤と歯胚の位置関係ならびにそれらの発育経過など, 組織学的ならびに組織発生学的観察を行なったものである。
著者
根岸 孝康
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.364-381, 1978

顎口腟機能と密接に関連した舌は, 咀嚼は勿論のこと発音運動においても重要な役割を果たしている。そこで舌の機能的進化の実態を解明する目的で, 舌運動との関連において, ヒトを含む霊長類の舌の筋構築と筋紡錘分布の変遷を比較調査した。<BR>ツパイでは, 舌筋構築は比較的単純で, 舌に筋紡錘は存在しない。スローロリスでは, 上縦舌筋が舌の正中部に限局した小線維束として配列し, 筋紡錘が頤舌筋に1個出現した。ニホンザルでは, 舌筋構築はより複雑となる。上縦舌筋の発達は悪いが, 頤舌筋はよく発達している。筋紡錘は, 頤舌筋に94個, 茎突舌筋に8個, 舌骨舌筋に6個と外舌筋に多く分布し, 上縦舌筋には6個, 横舌筋には8個と内舌筋にも出現し, 総数61個の筋紡錘が出現した。ヒトでは舌筋構築はきわめて複雑で, 上縦舌筋は舌背部から舌外側縁に広く発達し, 筋紡錘は上縦舌筋に159個, 横舌筋に79個, 下縦舌筋に22個, 垂直舌筋に8個と内舌筋に268個と多く出現した。頤舌筋には121個, 茎突舌筋には75個, 舌骨舌筋には37個と筋紡錘は外舌筋に233個分布し, 舌全体では501個の筋紡錘が片側で存在した。