著者
檜垣 麟三
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.6, no.2, pp.75-80_2, 1932

1927年オルバン氏ハ「デンチケル」ノ兩極附近ニ「エピテル子ステル」ノ存在スルコトアルヲ認メ, 之ハへルトウイッヒ氏上皮鞘ヨリ分離シタル上皮片ガ齒牙ノ萠出卜共ニ齒髓内ニ迷入シ之ガ刺戟ヲ與ヘテ造齒細胞ヲ分化セシメ, 「デンチケル」ヲ形成スルモノナルベシトシ, 此ノ場合モブルン氏象牙質形成學説ヲ以テ説明シ得ラルルモノナルベシト圭張セリ。然レドモ尚的確ナル組織學的證明ヲ缺キ居タルヲ以テ, 諸家ノ信ズル所トナルニ至ラザリキ。<BR>余ハ齒根形成途上ニアル齒芽ノ檢索中, 偶然オルバン氏學説ヲ階段的ニ證明スルニ足ル像ヲ發見セリ。即チ眞性「デソチケル」ガ常ニ髄牀底及ビ齒根端ニ近キ部分ニノミ多ク發見セラルルハ全ク之ト「エピテル子ステル」トノ關係ニ基クモノニシテ, 多クノ人々ノ反對アル二拘ラズ, ナルバン氏學説ヲ裏書スルノ像アルヲ證シ, 且ツ其ノ像ノ比較的稀ニノミ見ラルルハ眞性「デンチケル」形成ノ初期ニ於テノミ上皮細胞群ヲ認メ得ルニ過ギズ, 「デンチケル」稍〓大トナルヤ上皮細胞群ハ中心ニ於テ退行變性シ, 遂ニ齒髓細胞卜置換セラルル二至ルニ基因スルモノナルコ卜ヲ證明シ得タリ。<BR>故ニブルン, オルバン兩氏ノ學説ハ眞ナリト云フノ外ナク, 齒根形成中「エピテル子ステル」ガ齒髓組織中ニ迷入スル時ハ, 之ガ刺戟トナリテ其ノ周圍ノ齒髓細胞ハ造齒細胞ニ轉換シ得ルモノニシテ, 齒髄中ニ遊離存在セル眞性「デンチケル」ノー部ハ確カニ此ノ成因ニヨリテ形成セラルルモノナルコ卜ヲ證明シ得タリ。
著者
松木 教夫
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.38, no.3, pp.333-362, 1971
被引用文献数
2

補綴的処置に伴なう患者の音声の変化を聴覚的に検査する方法として, 国際音声記号を基本として, これに更に詳細な注を付すことによって音の歪等を忠実に表記する方法を試みた。<BR>検査用語は (1) 語音100個を全く任意の順番に配列したもの (R法) , (2) 語音100個を50音図の順に従って配列したもの (O法) , (3) 単語200個, (4) 文章1種類とした。<BR>検者は国際音声記号の表記法についてとくに訓練された3名の言語治療士で, 被検者の音声の録音を繰返し聴取してから表記を行ない, これを原表と照合して不正音について検討を行なった。<BR>全部床義歯患者38名について上記の方法で検査を行なったところ, 次のような結果が得られた。なお, 検査時期は, 語音の検査では, (1) 術前, (2) 義歯装着直後, (3) 義歯装着30日後の3時点, 単語及び文章の検査では (1) 術前, (2) 義歯装着30日後の2時点とした。<BR>また, 被検者を (1) 術前に旧全部床義歯を装着していた者 (経験者群) と (2) 義歯を使用せず無歯顎であった者 (未経験者群) の2群に分けて検討した。<BR>語音の検査における明瞭度 (正解音数率) を見ると, いずれの時点でもR法の方が0法よりも低い。また, 経験者群では明瞭度の変動は比較的少ないが, 未経験者群では術前の明瞭度が著明に低く, 義歯装着直後, 30日後に明瞭度は上昇し有意差が認められた。<BR>語音の検査における不正音を子音別にみると, R法では経験者群, 未経験者群ともに多くの子音に分散してみられたが, 0法では, 全体の不正音はR法の場合よりも少なく, 特定の時点, 音に集中してより多くの不正音がみられた。とくに未経験者群の術前で [s] , [dz] , [∫] , [t∫] , [d〓] に不正音が多かったが, 義歯装着後には急激に減少してゆく。<BR>子音の調音点別にまとめてみると, R法では全体に不正音がみられるが, 0法によると未経験者群の術前で, 歯音, 歯茎音の不正音が多く, 義歯装着後には著明に減少していた。硬口蓋音では, 義歯装着後に経験者群も未経験者群もほぼ同程度の不正音がみられた。また, 軟口蓋音では義歯装着直後に一時的に不正音が増加していた。<BR>単語を用いた検査では, 語音のO法より更に全体の不正音は少ないが, 未経験者群の術前では [s] , [ts] , [∫] , [t∫] などの限られた音に不正音がみられた。また, 子音の前後の音の調音点別の組合わせによる影響を検討したが一定の傾向はみられなかった。<BR>文章を用いた検査では, 単語の場合よりも更に全体の不正音は少なくなり, 特定の時点, 音に集中していた。また, 前後の音の種類による影響も認められなかった。
著者
高橋 新次郎 小原 博司
出版者
口腔病学会
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.9, no.3, pp.251-259, 1935 (Released:2010-12-08)
参考文献数
7

Until quite recently, it has been regarded in pediatric circles that the continuous use of the comforter may be very harmful to children, owing to various reasons such as the continuous and superfluous flow of saliva, due to the comforter, which may lead to a disturbance in appetite during feeding- time, and the lack of disinfection has also been regarded as making the comforter a means of conveying bacteria into the mouth to cause different sorts of stomatitis.But when we look at this problem from an orthodontic point of view, an additional grievance, which may be classed as an etiological factor of malocclusion, should be added to these.Hardly any investigations on this special line have as yet appeared in Japan, but in Europe and the United States quite a few has been interested in this subject and results of their investigations were reported.In 1930, Dr. S. Dreyfus in Switzerland wrote an article entitled “Infant Feeding”, the contents of which may be of some interest to us. He states that bony deformation may result from the use of the ordinary teat in artificial feeding, through compressing the teat with the tongue (See Fig.1) . The effects of this action of the tongue would be to project the anterior part of the maxilla in V-shaped form, and to raise the median part of the palate.It would also produce a protrusion of the maxillary incisor, leading to an ogival or gothic palate. By the elevation of the palate, the palato-frontal distance is diminished, which in consequence diminishes the height of the nasal cavities and leads to a deviation of the septum narrowing the nesal cavities as well. Insufficient work of the lips, according to him, results in flabby lips, or in their atrophy.He adds to say that the insufficient exercise of suprahyoid and masticatory muscles causes a retardation of the mandible, and in consequence the teeth do not find the normal space to arrange themselves, producing the crowd of the mandibular anterior teeth. Also by reason of want of exercises of the masticatory muscles, the upper part of the face, and the part corresponding to the skull and the mandible, where these muscles have their insertions, undergo delays in their development.The mechanicle influences of the comforter may be regarded as the same as those of the ordinary teat during artificial feeding, but it must be borne in mind that the comforter is in far more continuous use than the teat and therefore it is easily conceived that much damage should be done.Fortunately, we had a chance to make statistical investigations in children using the comforter and the results of the examination were as follows : —1) Most of the children using the comforter are found to be artificially fed.2) The use of the comforter may be regarded as an etiological factor, leading to deformities such as elevation of the palate, V-shaped narrow arch, protrusion of the upper incisors, open bite, flabby lips, and mouthbreathing.3) Bony deformity is clearly observed, even when the comforter is used, preceding the eruption of the deciduous teeth.4) Early discontinuance of the use of the comforter will in most cases act as a corrective measure to malocclusion.
著者
阿部 和夫
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.10, no.4, pp.475-494, 1936

1927年, Seidel及ビReckow氏ハ「上顎賓ハソノ發育ニ當リ臼齒部根端ト上顎賓底トノ接近ヲ來シ, 殊ニ臼齒部齒牙ノ缺殞後ニソノ齒牙間隙部ニ, 上顎竇底ノ著シキ沈下ヲ認ムル」コト、述べ, 之ヲ齒牙缺損間隙窩Zahn-l霍ckenbuchtト稱セリ。最近ニ於テハ1935年Heuser氏ニヨル同樣ノ事實ガ確證セラル、ニ至レリ。<BR>斯クノ如キ事實ハ外科的操作ニ當リテハ, 拔齒時ノ賽, 口腔ノ連絡, 或ハ殘根ノ賓内侵入等ヲ惹起シ, 架橋義齒裝著ニ當リテハ根管治療ノ不完全ニ因スル根端部炎症ハ, 容易ニ上顎竇炎ニ移行スト考ヘラル。<BR>余ハ東京高等齒科醫學校附矚醫院ニ於テ, 最近約5ケ年間ニ撮影セシ齒科用「レントゲン」像ヲ診査シ, 「レ」像上ニテSeidel及ビReckow氏ノ所謂齒牙缺損間隙窩ノ著明ニ形成セラレタリト思ハル、モノ115例ヲ得テ, 之ガ統計的觀察ヲ行ヒ, 次イデ模型ニヨル實驗, 更ニ上顎竇ヲ組織學的ニ檢索セリ。<BR>1.「レントゲン」像ノ統計的觀察, 「レ」像ノ撰出ニ當リテハ, 賽底線が兩隣在齒齒根端ヨリ根側ニ浩ヒテ, 線状ヲナシテ沈下セノレガ如キ像ニ限り, 齒根ヲ途中ニテ横斷スルガ如キモノハ之ヲ除ケリ。<BR>(1) 歓損齒牙ノ部位ハM<SUB>1</SUB>107例 (78.7%) , M<SUB>2</SUB>22例 (16.2%) , P<SUB>2</SUB>6例 (4.4%) ニシテ主トシテ第一大臼齒部ニ出現ス。<BR>(2) 齒牙缺損間隙窩ニ齒根ヲ近接セル齒牙ハP<SUB>2</SUB>66例 (46.2, 0) , M<SUB>2</SUB>64例 (44.8%) , M<SUB>15</SUB>例 (3.5%) , M<SUB>3</SUB>2例 (1.4%) ニシテ第ニ小臼齒部, 第二大日齒部ニ最モ多シ。<BR>(3) 齒牙缺損間隙窩ノ深サニ就テハ, 6乃至8mmノモノ最モ多數ニシテ, 時ニハ殆ド平坦ナルモノ, 或ハ10mmニ及ブモノアリ。<BR>(4) 賓窩底ヨリ齒槽骨表面迄ノ距離ハ, 1乃至5mmニシテ, 最モ非薄ニシテ約1mmニ及ブモノ15例ヲ得タリ。<BR>(5) 初診時ノ歓損部ノ状態ハ, 架橋義齒最モ多ク, 大ナル齒冠部齲蝕之ニ次ギタリ。<BR>(6) カ、ル牙ノ拔去ヨリ「レ」撮影迄ノ期間ハ大髓1乃至2ケ月ニシテ, 中ニハ長年月ヲ經タルモノ有リトハ云へ, 齒牙鉄損間隙窩ハ比較的短時日ニ形成セラル、モハ如シ。<BR>(7) 年齡的關係ハ青年期最モ多ク。<BR>(8) 性別的關係ハ之ヲ認ムルヲ得ズ。<BR>2.模型ニヨル實驗<BR>臨牀的「トントゲン」的觀察ノ確實ナリヤ否ヤヲ確メントシテ模型ヲ形成シ, 「ワツクス」及ビ拔去齒牙ヲ以テ上顎竇竝ビニ齒牙ノ關係ヲ移シタルモノ數個ヲ以テ, 之ニ種々ナル方向ヨリ「レントゲン」冩眞ヲ撮影セリ。ソノ結果ハ臨牀的ニ口腔内ニ於テ撮影シ得ベキ範圍内ニ於テハ「レ」像ハ齒根端ト竇ノ近接セルモノハ近ク, 遠キモノハ隔テ、, 正シキ位置的關係ヲ明示シ, 殊ニ竇底線ガ隣在齒根端ヨリ根側ニ沿ヒ沈下セルガ如キ像ハ, 齒根ト竇トが近接シ即チ賓ノ沈下ト認ム可キモノナリ。<BR>3.齒牙缺損ヲ有スル上顎骨ヲ組織學的ニ檢索シテ次ノ如キ結果ヲ得タリ。<BR>(1) 陷凹窩ヲ「レントゲン」ニテ觀ルニ, ソノ陷凹ノ形態ハロ内法ニテ撮影セシ場合及ビ模型ニテ觀察セル場合ト等シク, 隣在齒根ト齒牙缺損間隙窩トノ關係ヲ明示セリ。<BR>(2) 賽内壁ニ於ケル吸敢状態ヲ觀察スァレニ吸牧ノ進行方向ハ齒牙側 (竃底) 最モ著シク, 鼻腔側及ビ頬側之ニ次ゲリ。<BR>(3) 竇外壁ニ於テハ常ニ輕度ノ骨新生像ヲ認メタリ。
著者
懸田 克躬
出版者
口腔病学会
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:03009149)
巻号頁・発行日
vol.11, no.2, pp.136-145, 1937 (Released:2010-12-08)
参考文献数
16

著者ハ, 口蓋圖Palatogrammト舌圖Linguagrammトヲ取ツテ, 日本語音ノ構音機構ヲ檢シテ, 次ノ諸點ニ就テ多少從來ノ諸家ト異ナル所見ヲ得, 其成績ニ基イテ二三ノ考察ヲ加ヘタ。(1) 二重母音的ニ發セラレル「イ」ハiトeトノ中間ニハアルガiニ近イ。(2) 「ヤ」「ヨ」頭音 (半母音) ノ構音デハ, 舌ノ位置ハ「イ」デナクテ「エ」デアルト云ハレテ居ルガ, 著者ニ於テハ多クノ場合矢張「イ」ニ近イ。(3) 「サ」行音「シ」ハ∫iデハナク, ソノ子音ノ構音ハsトcトノ中間ニアツテ, 寧ロ後者ニ近イ。(4) 「カ」行子音ノ構音部位ハ「キ」「ケ」「ク」「カ」「コ」ノ順ニ後退スル。(5) 「ラ」行音中, 「ロ」音デハ口蓋ト舌トノ間ニ細イ間隙ヲ殘ストイフコト (Edwards) ハ通例ニハ妥當シナイ。「ラ」行音ハ少クトモ語頭ニ於テハ, 皆一種ノ破音デアル。
著者
頼 海元
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.39, no.1, pp.26-63, 1972
被引用文献数
1

ヘビの毒牙に関しては1765年Fontanaがオウシュウクサリヘビの毒牙について構造形態を観察して以来, 多くの研究者が各種ヘビを材料として毒牙の形態, 組織学的構造ならびに発生学的観察をなしている。しかし従来の研究は断片的な, 非常に簡単な観察がほとんどであるために, 不明な点が非常に多いのが現状である。とくに顎の中における各発育段階の毒牙歯胚相互の位置関係ならびに歯堤との関連性は非常に複雑である。その上, 歯堤は発生初期に毒腺原基との関連が強いために, 一層複雑な形成過程をえて歯堤形態が完成されてゆく。<BR>以上のことから, この論文では歯に関する比較発生学的研究の一端として, 日本産のマムシ毒牙を研究の対象として研究を行なったものである。マムシ卵生期における種々の発育段階における胎児ならびに成体を材料として用い, 成体の一部については乾燥頭骨標本を作成し, 歯と顎骨の関係, 毒牙の形態について肉眼的観察を行なうとともに, 双眼実体顕微鏡を用いて軟組織を除去しつつ機能歯, 後続歯胚群の相互位置関係, それらの配列状態ならびに歯胚の発育状態について観察を行なった。成体の毒牙については各部位の横断ならびに縦断研磨標本を作製し, 組織学的構造について観察を行なった。各胎児ならびに成体の材料については各種断面の連続切片を作製し, 各種染色をほどこして歯堤及び毒牙歯胚の形成過程, 歯堤と歯胚の位置関係ならびにそれらの発育経過など, 組織学的ならびに組織発生学的観察を行なったものである。
著者
根岸 孝康
出版者
The Stomatological society, Japan
雑誌
口腔病學會雜誌 (ISSN:18845185)
巻号頁・発行日
vol.45, no.2, pp.364-381, 1978

顎口腟機能と密接に関連した舌は, 咀嚼は勿論のこと発音運動においても重要な役割を果たしている。そこで舌の機能的進化の実態を解明する目的で, 舌運動との関連において, ヒトを含む霊長類の舌の筋構築と筋紡錘分布の変遷を比較調査した。<BR>ツパイでは, 舌筋構築は比較的単純で, 舌に筋紡錘は存在しない。スローロリスでは, 上縦舌筋が舌の正中部に限局した小線維束として配列し, 筋紡錘が頤舌筋に1個出現した。ニホンザルでは, 舌筋構築はより複雑となる。上縦舌筋の発達は悪いが, 頤舌筋はよく発達している。筋紡錘は, 頤舌筋に94個, 茎突舌筋に8個, 舌骨舌筋に6個と外舌筋に多く分布し, 上縦舌筋には6個, 横舌筋には8個と内舌筋にも出現し, 総数61個の筋紡錘が出現した。ヒトでは舌筋構築はきわめて複雑で, 上縦舌筋は舌背部から舌外側縁に広く発達し, 筋紡錘は上縦舌筋に159個, 横舌筋に79個, 下縦舌筋に22個, 垂直舌筋に8個と内舌筋に268個と多く出現した。頤舌筋には121個, 茎突舌筋には75個, 舌骨舌筋には37個と筋紡錘は外舌筋に233個分布し, 舌全体では501個の筋紡錘が片側で存在した。