著者
額賀 京介
出版者
日本社会学理論学会
雑誌
現代社会学理論研究 (ISSN:18817467)
巻号頁・発行日
vol.10, pp.115-127, 2016 (Released:2020-03-09)

エーリッヒ・フロムは、フランクフルト社会研究所在籍時に、権威主義に対する批判的考察を行っている。この考察は、フロム独自の自我理論と疎外‐ 物象化論として把握可能である。この権威主義研究の際、フロムはフロイト自我理論への批判を、フロイトの概念である超自我、自我、エスという自我三層構造論を踏襲しながら行っている。自我が弱い時、彼は、「内部世界と外部世界」を生活充足の対象とする人格的課題を、超自我が担うことを認めている。しかしこの時、超自我が精神を支配し、この過程内で抑圧という心的機制が生じる。この抑圧によって自己は消耗し、自我の能動的行為編成機能と現実検証機能が低下するのである。そして、この超自我は権威との相互的な再帰的構造化過程を形成する。超自我は、自己の精神的エネルギーを権威対象へ投影する。さらに投影、備給された精神的エネルギーが、権威の命令を内化することによって、超自我に回帰していく。この諸過程によって、権威への合理的批判は抑制され、自我機能の低下が起こる。さらに、これは社会的相互作用として成立しているため、社会文化領域での物象化が生じるのである。最終的に、この超自我による物象化‐ 疎外現象は、次の四つの具体的事象へと帰結する。それは①精神的なエネルギーの譲渡=疎外、②自己関係の疎外、③自己による自己産出過程の物象化された超自我と権威への譲渡=疎外、④自己関係内部にある、権威対象以外の他者からの疎外である。