著者
風間 啓敬
出版者
京都大学
雑誌
若手研究(B)
巻号頁・発行日
2011

生体内において、死細胞はその死に方により炎症を伴う場合と伴わない場合がある。炎症を引き起こす能力を持ち貪食能を備えたマクロファージや樹状細胞などは、死細胞に付随する抗原を取り込み、提示する能力を備えているため、死細胞の除去後における免疫応答惹起の決定において重要な機能を担っている。末梢における自己抗原に対する免疫寛容の破綻は、リュウマチをはじめとする自己免疫疾患の原因機構と考えられるが、免疫寛容の誘導機構に未だ不明な点が多いため、疾患の原因も不明である。これまでの研究から、死細胞を貪食する樹状細胞か分子レベルで細胞内のHMGB1の酸化還元状態を感知し、獲得免疫を担う細胞の活性化を調節していることを報告した。そこで本研究では生体内でのHMGB1の酸化還元状態を検出する方法を確立し、生体内での機能を探索することを目的とした。そのために樹状細胞をはじめ、貪食細胞の活性化を簡便に検出するためのマーカーを探索するために、免疫寛容を誘導する機構の解析を行った。HMGB1のCys106の酸化により、次亜硫酸化システインが生成されると仮定してその検出を試みた。ビオチン化maleamideを用いて還元型を、ビオチン化dimedoneを用いて酸化型(キャッピングされた次亜硫酸化基)の検出をウェスタンにより試みたが、検出できなかった。他の研究室からの報告では亜硫酸化、硫酸化システインが質量分析により検出されたことから、化学修飾法による不安定な次亜硫酸化システインの検出はできなかったと考える。一方、末梢での免疫寛容の機構を解析するため、ハプテン化アポトーシス細胞の静脈注射によりハプテンを抗原としたアレルギー反応(DTH応答)の抑制実験を、PD-1を遺伝的に欠損したマウスにおいて行った。予想通り、PD-1を欠損したマウスではDTH応答が抑制されなかった。CD8T細胞がDTH応答抑制に関与していること、さらにCD8T細胞におけるPD-1の恒常的発現により本来の機能である細胞障害活性を阻害すること、が報告されていたことから抑制性CD8T細胞でのPD-1の発現上昇が予想されたが、実験結果からCD8T細胞でのPD-1の発現は抑制性CD8T細胞への分化や機能には直接必要ないことが示された。しかしこれまでの研究では、抑制性CD8T細胞分化に関わる、PD-1陽性細胞に同定には至っていない。