著者
柚崎 通介 松田 信爾 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

補体Clqの球状ドメイン(gClq)を磯能ドメインとして持つClq/TNFスーパーファミリーが、シグナル分子や細胞外マトリックス分子として細胞外環境において非常に多彩な生理機能に関与することが近年注目を集めている。一方、Clq/TNFスーパーファミリーの中には脳内に主に発現するCblnファミリーとClq1ファミリーが存在するが、これらの分子の生理機能についてはほとんど分かっていない。私たちはこれまでにCblnファミリーのうちCbln1分子が、小脳顆粒細胞-プルキンエ細胞シナプスにおいて、シナプスの接着性と可塑性を制御することを発見した。Cbln1は海馬歯状回に線維を送る嗅内皮質にも発現し、他のメンバー分子Cbln2やCbln4も海馬や脳内の各部位に発現していることから、他の脳部位においてもCblnファミリーがシナプス形態調節分子として機能している可能性がある(Eur J Neurosci,in press)。今年度はClq1ファミリー分子群(Clql1-Clql4)の解析を進めた。Clql1は小脳登上線維の起始核である下オリーブ核に特異的に発現し、Clql2とClql3分子は海馬歯状回の顆粒細胞に発達期および成熟後も共発現する。これらの分子は何れもCblnファミリーと同様に同種・異種分子間にて多量体を形成して分泌されることを見いだした(Eur J Neurosci,2010)。これらのことからClqlファミリーもCblnファミリーと同様に、発達時や成熟後の脳においてシナプス機能に関与している可能性が示唆された。
著者
柚崎 通介 松田 恵子 飯島 崇利
出版者
慶應義塾大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2008

成熟した個体の脳におけるシナプスの生成・消滅を支える分子機構については未だに不明な点が多い。その原因の一つは、成熟脳におけるシナプス形成や消滅は、数が少なく、かつ時間的に揃っていないことである。私たちはこれまでにδ2グルタミン酸受容体とCbln1分子が、発達時のみでなく成熟脳においてもシナプスの機能的可塑性と新規形成を制御することを見いだし、δ2受容体とCbln1シグナル経路を特異的に活性化ないし不活化する分子ツールの確立に成功した。これらの独自の分子ツールを活用することにより小脳と海馬をモデルとして、成熟脳におけるシナプスの機能的・形態的可塑性の分子機構を明らかにするとともに、これらの過程を外的に制御することを目指している。最近、δ2受容体のN末端部分をδ2受容体欠損動物の小脳に強制的に発現させると、わずか24時間以内に新たなシナプスが形成され、成熟後においても運動失調症状が劇的に改善することを見いだした(J Neurosci,2009)。また、組換えCbln1を小脳に注入すると、プルキンエ細胞樹状突起上の棘突起に特異的に結合すること(Eur J Neurosci,2009)、小脳における運動学習の成立過程を制御できること(投稿準備中)、も分かってきた。面白いことに、いったん成立した運動記憶については、平行線維-プルキンエ細胞シナプスが存在しなくとも、正常に想起でき、かっ消去できた。このように、記憶の各相における可塑性シナプスの移動機構の解明の糸口もつかみつつある。