著者
飯島 高雄
出版者
慶應義塾経済学会
雑誌
三田学会雑誌 (ISSN:00266760)
巻号頁・発行日
vol.95, no.3, pp.531(75)-558(102), 2002-10

論説1. はじめに2. 韓国「財閥」に関する定型化された事実3. モデルの設定と分析4. 韓国「財閥」への適用5. おわりに本稿では、所有・支配構造がオーナー経営者に集中している。複数企業で経営多角化がなされる、というアジア企業に共通する特徴を有する韓国「財閥」を取り上げ、金銭的価値と非金銭的私的便益で構成される企業価値の和を最大化するように各企業の投資水準を決定するモデルにおいて、内部資本市場と資本市場の資源配分パターンと効率性を比較分析する。分析の結果、内部資本市場による資源移転には経済全体の初期賦存資源総額によるバイアスがあるのに対して、資本市場による資源移転にはオーナー経営者の限界私的便益によるバイアスがあることが明らかになった。This study considers "chaebols," or Korean industrial conglomerates, which have characteristics common to that of Asian enterprises, wherein ownerships and controls are concentrated in the owner managers and business lines are diversified through multiple group companies. Based on the model in which the level of investments in each group company is determined in order to maximize the sum of the corporate values comprising pecuniary values as well as non-pecuniary private benefits, we compare and analyze the resource allocation patterns and efficiencies achieved through external and internal capital markets. The result reveals that the transfer of resources through internal capital markets are biased by the total amount of resources initially endowed in the entire economy, whereas the transfer of resources through external capital markets are biased by marginal private benefits of the owner managers.
著者
飯島 高雄 池尾 和人
出版者
慶應義塾大学
雑誌
三田商学研究 (ISSN:0544571X)
巻号頁・発行日
vol.43, no.6, pp.43-66, 2001-02-25

韓国の先進国へのキャッチアップ期にあたる1960-70年代に,韓国「財閥」は,経済合理性をもつものとして形成された。すなわち,先進国の経験が観察でき,国民経済の規模が小さく構造が単純な発展段階初期においては,政府が経済開発計画を策定し,政府要職と「財閥」オーナーの個人的関係によって,そのプロジェクトに対する信用供与の決定と監視が行われることには費用効率性が存在していた。こうした韓国「財閥」の財務構造上の特徴は,銀行借入(間接金融)中心の外部資金への著しく高い依存度にある。政府系金融機関や国有化された市中銀行からの政策金融による資金調達によって,「財閥」オーナーは,限られた出資にもかかわらず,支配権を維持することができ,株主と経営者の利害対立は存在しなかった。また,政府が主たる債権者となったことで,株主と債権者との利害対立の問題は解決された。しかし,1980-90年代には,経済発展の達成(先進国キャッチアップ完了)と外部環境変化によって,「財閥」という企業形態の経済合理性はかなりの程度失われた。同時に,政府による監視の有効性も低下してきており,支配株主と少数株主の間の利害対立や株主と債権者の間の利害対立が顕在化,深刻化するようになった。けれども,ピラミッド所有構造に加えた株式持ち合いによって,「財閥」オーナーの経営支配権は維持され続けている。特定の組織形態が存在意義を失い,社会的には転換あるいは消滅することが望ましくなったとしても,そうした組織再編成を従来の組織形態の担い手自らが行うことは,当事者の誘因を考えると実現困難であることが多い。韓国においても,「財閥」オーナー・政府の個別合理性の観点からは,改革の当事者である主体に改革の誘因は乏しく,それゆえ非効率化したシステムが継続される可能性は高いとみられる。