- 著者
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飯島 高雄
池尾 和人
- 出版者
- 慶應義塾大学
- 雑誌
- 三田商学研究 (ISSN:0544571X)
- 巻号頁・発行日
- vol.43, no.6, pp.43-66, 2001-02-25
韓国の先進国へのキャッチアップ期にあたる1960-70年代に,韓国「財閥」は,経済合理性をもつものとして形成された。すなわち,先進国の経験が観察でき,国民経済の規模が小さく構造が単純な発展段階初期においては,政府が経済開発計画を策定し,政府要職と「財閥」オーナーの個人的関係によって,そのプロジェクトに対する信用供与の決定と監視が行われることには費用効率性が存在していた。こうした韓国「財閥」の財務構造上の特徴は,銀行借入(間接金融)中心の外部資金への著しく高い依存度にある。政府系金融機関や国有化された市中銀行からの政策金融による資金調達によって,「財閥」オーナーは,限られた出資にもかかわらず,支配権を維持することができ,株主と経営者の利害対立は存在しなかった。また,政府が主たる債権者となったことで,株主と債権者との利害対立の問題は解決された。しかし,1980-90年代には,経済発展の達成(先進国キャッチアップ完了)と外部環境変化によって,「財閥」という企業形態の経済合理性はかなりの程度失われた。同時に,政府による監視の有効性も低下してきており,支配株主と少数株主の間の利害対立や株主と債権者の間の利害対立が顕在化,深刻化するようになった。けれども,ピラミッド所有構造に加えた株式持ち合いによって,「財閥」オーナーの経営支配権は維持され続けている。特定の組織形態が存在意義を失い,社会的には転換あるいは消滅することが望ましくなったとしても,そうした組織再編成を従来の組織形態の担い手自らが行うことは,当事者の誘因を考えると実現困難であることが多い。韓国においても,「財閥」オーナー・政府の個別合理性の観点からは,改革の当事者である主体に改革の誘因は乏しく,それゆえ非効率化したシステムが継続される可能性は高いとみられる。