著者
飯村周平
出版者
日本教育心理学会
雑誌
日本教育心理学会第59回総会
巻号頁・発行日
2017-09-27

問題と目的 心的外傷後成長(posttraumatic growth: PTG)は,トラウマあるいはストレスフルな経験との心理的な奮闘により生じるポジティブな変化を指す(Tedeschi & Calhoun, 1996)。その変化には,他者との関係の改善,新たな可能性の発見,人間としての強さの獲得,精神性の成長,人生に対する感謝に関する5つの領域が含まれる。これまでPTGは,レトロスペクティブな横断的調査に大きく依存した方法論に基づいて研究されてきた(Jayawickreme & Blackie, 2014)。そのために自己報告された成長が本当の変化を表しているのか,PTGの構成概念妥当性に疑問を抱く研究者も多い。Frazier et al.(2009)はこの疑問を解決するため,ストレス経験前後でPTG領域の現状の機能レベルを測定し,その差得点を実際のPTGと定義した。その際に作成されたのが,現状測定版のPTG Inventory(PTGI)である。Frazier et al.は,この尺度を用いて実際のPTGを測定し,従来のレトロスペクティブな方法で測定されたPTGとの関連を検討した。 本研究では,Iimura & Taku(2016)によって作成された日本人の子どもを対象とする現状測定版PTGI(Table 1)の再検査信頼性と基準関連妥当性を報告する。方 法手続き 2016年3月に第1調査(T1),2016年5月に第2調査(T2)を実施した。2つの調査間で,対象者は青年期のストレスフルなライフイベントとして高校移行を経験した。インターネット調査を用いて,参加者は日本全国から募集された。対象者 T1は310名(男子155名,女子155名,14―15歳)の中学3年生であり,そのうち262名(男子130名,女子132名,15―16歳)がT2に参加した。測定した変数 T1では,PTGの現状の機能レベル(Iimura & Taku, 2016),レジリエンス(徳吉・森谷,2014),Big Fiveパーソナリティ特性(小塩他,2012)を測定した。T2では,前述したT1に含まれる変数,PTG(Taku et al.,2012),中核信念の揺らぎ(Taku et al., 2015),出来事中心性(Berntsen & Rubin, 2006),侵入的反すう・意図的反すう(Taku et al., 2015),知覚されたサポート(岩瀬・池田,2008)を測定した。分析方法 現状測定版PTGIの再検査信頼性を検討するため,T1とT2における得点の相関係数を算出した。基準関連妥当性を検討するため,現状測定版PTGIのT1とT2の潜在差得点(McAdre & Nesselroade, 1994; i.e.,得点が正であればプラスの変化を示す)を算出し,他の変数との偏相関係数(現状測定版PTGI のT1潜在得点を統制)を計算した。結果と考察再検査信頼性 T1とT2における各合計得点間および各下位尺度得点間の相関はr = .35―.47(ps 基準関連妥当性 尺度全体の差得点は,T1の変数と大きな相関はなく,T2のレジリエンス(r = .14),勤勉性(r = .19),開放性(r = 15),中核信念の揺らぎ(r = .35),出来事中心性(r = .24),侵入的反すう(r = .17),意図的反すう(r = .19),知覚されたサポート(r = .18)と正の相関を示した(ps < .01)。これらの変数は,PTGの生起メカニズムを説明する理論モデルに含まれる(Calhoun & Tedeschi, 2006)ため,現状測定版PTGIで測定した変化は,PTGを反映している可能性が高いと考えられる。