著者
飯野 敬矩
出版者
奈良先端科学技術大学院大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2011

昨年度は、接着力評価のための外力であるフェムト秒レーザー誘起衝撃力の評価研究を中心課題とし、その計測学的理解を深めた。また、それまで不明瞭であった衝撃力の現象論的描像を考察し、接着力の定量化におけるその適用範囲の指針を示した。これらの研究を行った上で、神経一マスト細胞共培養系を接着力評価のモデル系に用い、両者間の接着力を3時間ごとに定量化することでその時間変化を明らかにした。測定には7~30時間共生培養を行った培養系を用い、3時間毎に接着力を定量化した。測定時間は90分間とした。その結果、90分間で約150細胞の接着力を定量化することに成功した。この結果をヒストグラムにまとめたところ、両者の接着力は、0.5-2.0×10-12Nsであることが示された。また、共生培養7-14.5時間では、接着力が0.8×10^<-12>Nsである細胞が最も多く、そこから1.6×10^<-12>Nsにかけて、細胞数は指数分布を示した。また、共生培養時間の経過に伴い、指数関数の時定数が増加する形で、接着力が強化される細胞数が増加した。さらに時間が経過すると(共生培養16.5-18時間)、この指数分布において1.6×10^<-12>Nsにもピークが現れた。その後、共生培養20時間において0.8×10^<-12>Ns、及び1.6×10^<-12>Nsをピークとした二峰性の正規分布を示した。それ以降では、接着力の分布に顕著な変化はみられなかった。これは、共生培養20時間程度で接着が成熟状態に至り、且つその状態が系内の半数程度の細胞の接着力が倍程度まで強化される状態であることを示唆する。これまで、接着力を統計学的データとして時間軸に沿って示した報告例は無く、新規性の高い成果を得ることができた。現在、神経とマスト細胞の接触面への細胞接着分子の集積の可視化に成功しており、今後、接着分子の細胞内挙動の時間変化を明らかにすることで接着の力学機構と分子機構のダイナミクスを統合的に解析し、理解することが可能になると予測される。