著者
香山 尚子
出版者
The Intestinal Microbiology Society
雑誌
腸内細菌学雑誌 (ISSN:13430882)
巻号頁・発行日
vol.36, no.4, pp.177-188, 2022 (Released:2022-10-28)
参考文献数
97

病原微生物へのTh1, Th2, Th17応答は生体防御に必須であるが,過剰な炎症応答は組織恒常性維持の破綻につながる.そのため,Foxp3+制御性T(Treg)細胞は,多様なメカニズムによりエフェクター応答を厳密に制御している.IPEX症候群では,Foxp3遺伝子変異にともなうFoxp3+ Treg細胞の機能異常により,腸炎や自己免疫疾患が発症することより,Foxp3+ Treg細胞が生体恒常性維持に極めて重要であることが示唆される.ヒトの腸管組織には40兆個も細菌が存在する.これまでに,腸内細菌の代謝産物や構成成分がFoxp3+ Treg細胞の分化や機能を制御し,腸管恒常性維持に寄与することが報告されている.細菌叢の乱れが炎症性疾患,自己免疫疾患,神経系疾患に関与することが示唆されており,腸内細菌によるFoxp3+ Treg細胞恒常性維持機構のさらなる解明が,多様な疾患の新規治療法開発につながることが期待される.
著者
香山 尚子 竹田 潔
出版者
一般財団法人 日本消化器病学会
雑誌
日本消化器病学会雑誌 (ISSN:04466586)
巻号頁・発行日
vol.110, no.5, pp.741-752, 2013 (Released:2013-05-07)
参考文献数
98

消化管に慢性の炎症が生じる潰瘍性大腸炎やクローン病といった炎症性腸疾患(IBD)は,食生活やライフスタイルの欧米化にともないわが国において急激な増加傾向を示す難治性疾患である.慢性炎症は多様な疾患に共通する基盤病態であり,腸管組織においても大腸癌リスク増大に関与する.近年,腸管組織において多様な自然免疫細胞が同定されるとともに,獲得免疫系の活性化を制御することで腸管組織の恒常性維持に寄与することが明らかとなった.今後,自然免疫系を標的としたIBDの病態解明および新規治療法の開発が期待される.