著者
馬場 章
出版者
東京大学
雑誌
特定領域研究
巻号頁・発行日
2004

本研究では、わが国科学技術黎明期たる江戸時代の計量統制に関する従来の研究の問題点に鑑み、彫金・大判・分銅という三家業を営んだ後藤家の分銅に関わる文献・器物資料を対象に調査・整理・分析・考察を行った。また、後藤家の分銅関係の文献資料に構造分析を加え、分銅の製造・流通過程と検定の全貌を解明した。さらに、後藤家伝来の器物資料である各種分銅の精密計測を行い、文献資料と器物資料の相関を解明した。後藤家伝来の分銅のうち、特に「正本分銅」は、後藤家が製造した分銅の基準になったと推測されるので、精緻な重量の測定を行った。平成17年度は以下の3点の研究を行った。1、史料翻刻昨年度に引続き、分銅関係資料の解読作業を行い、未翻刻の一次資料である「分銅御用諸書留」の解読作業を完了した。「分銅御用諸書留」により、近世後期から明治初年にかけての分銅の検定にかかわるプロセスや流通する分銅の公定価格の推移を知ることができ、これまで未解明であった分銅の製造・流通過程と検定の全貌を明らかにした。2、分銅調査未整理の分銅関係の器物資料のうち、千枚分銅模型・「正本分銅」・市中分銅・極小分銅など各種分銅及び分銅製作道具を調査・整理し、1点毎のデータを採取した上で目録を作成し、写真撮影を行った。分銅の重量・寸法に関しては、デジタル機材を活用して精緻な値を求めた。特に、「正本分銅」については、国立科学技術博物館の協力を得て、精緻な重量の測定を実施した。3、報告書の作成上記1、2の調査・作業で得られた成果を掲載した報告書を作成した。ここには分銅・諸道具一式の目録、「正本分銅」の各種データ、分銅関係資料の解読文が掲載される。これらの成果を踏まえ、本研究の目的である後藤家伝来の分銅に関わる文献資料および器物資料の構造化と両者の相関関係を考察し、その結果を論考として掲載した。