著者
馮 英華
出版者
千葉大学大学院人文社会科学研究科
雑誌
千葉大学人文社会科学研究 (ISSN:18834744)
巻号頁・発行日
no.26, pp.159-179, 2013-03

本論文は『1Q84』に散在する戦争や植民地記憶の語りに焦点を当て、それがいかなる意味を持つのかを探究するものである。登場人物の青豆、タマルと天吾の父親に関わる「記憶」を分析し、満鉄、樺太と満洲植民地についての叙述がいかに物語の展開・構造と連動しているかを考察する。さらに、とりわけ、天吾の父子関係と「記憶」の継承の問題を、アスマン、オリックらの記憶研究を参照しつつ重点的に検討することによって、作者が企図した「魂のソフト・ランディング」の可能性と限界について論じる。