- 著者
-
駒谷 壽一
- 出版者
- 昭和大学学士会
- 雑誌
- 昭和医学会雑誌 (ISSN:00374342)
- 巻号頁・発行日
- vol.46, no.5, pp.677-685, 1986-10-28 (Released:2010-09-09)
- 参考文献数
- 22
大腰筋は股関節屈曲の主作動筋であるが, その筋線維構成についての記述は見られない.筆者は大腰筋について, その筋線維構成を検討し, これまでに同様の方法で検査されてきた骨格筋と比較検討を行った.研究対象ならびに方法: 研究対象は23~87歳 (平均年齢65.4歳) の成人10名 (男性4, 女性6) の病理解剖屍から得られた大腰筋である.筋組織片は第5腰椎下縁高で, 筋走行に直角な断面の全域を採取, ホルマリン固定後, ゼラチン包埋, 凍結切片とし, Sudan Black B染色によって筋線維を濃染性の赤筋線維, 難染性の白筋線維及び中間染色性の中間筋線維に分別した.これらの組織標本について, 筋腹横断面積, 1mm2中の筋線維数, 断面の筋線維総数, 3筋線維型の頻度と太さの平均値および密度を算出した.結果: 1.ヒト大腰筋では筋腹横断面積は平均581mm2で, 男性が女性よりも優り, 1mm2中の筋線維数は平均830で他の筋よりも多く, 女性が男性よりも優り, 断面積と逆相関の傾向を示した.断面の筋線維総数は平均507, 579で, 大きな筋の部類に入り, 男性が女性よりも優り, 加齢的減少の傾向が認められた.2.3筋線維型の頻度の平均は白筋線維62.8%, 中間筋線維21.2%, 赤筋線維16.0%で, 他筋に比べて白筋線維の頻度が高く, サルの大殿筋と等しい組成であった.3.3筋線維型の太さの平均は, 赤筋線維, 中間筋線維, 白筋線維の順に大で, これまで検査した多くの筋の筋線維の太さに関する報告と全く逆であった.また, 白筋線維の太さの平均値はこれまでの報告例中最も小であった.4.筋線維の太さの分布型から見て, 加齢的に右方に偏し, 低分布型となる傾向が見られ, 筋線維の減少に伴う代償性肥大と考えられたが, 最終的には筋線維縮小に至る傾向が認められた.5.筋線維の密度は平均91.6%で, 他に比べて非常に高かったが, 男女とも高齢者程, 密度は低くなる傾向が認められた.