著者
高 存栄 応用地質研究会内モンゴル地下水調査班
出版者
地学団体研究会
雑誌
地球科學 (ISSN:03666611)
巻号頁・発行日
vol.53, no.6, pp.434-451, 1999-11-25
被引用文献数
10

内モンゴル河套平野の地下水ヒ素汚染地区は主として,平野の中部と西部に拡がる.ヒ素汚染のひどい地区は第四紀以来の断層運動に関連して形成された旧河道に沿って分布している.筆者らは数回のフイールド調査とヒ素含有量の分析によって,ヒ素がどこから供給され,どのようにして堆積物中および地下水中に集積したのかを調べた.本論は水文地球化学と地質学の立場から,ヒ素の移動・集積・再移動のメカニズム及び地質学的な背景について考察した.本研究によって,内モンゴル河套平野における地下水ヒ素汚染は,(1)自然の地質学と水文地球化学的プロセスによってもたらされたものと,(2)人為的な活動(かん漑用水の利用)の影響,この二つの原因を主として,進行したと判断される.汚染地区においては深度40m以浅に存在している粘土やシルト質粘土層などが高濃度のヒ素を含み,現在の地下水ヒ素汚染の主な原因層であると判断された.地層中へのヒ素の集積は,酸化・生物・コロイド作用によるものである.そのヒ素の供給源はおもに狼山山地にあるヒ素を含む硫化鉄鉱床・火成岩・変成岩などの風化・浸食産物であると推定される.ヒ素が地層から地下水へ溶出する原因は,多量のかん漑用水の浸透による地下の酸化還元電位および酸性・アルカリ性の条件変化にあると考えられる.