著者
高久 道子 市川 誠一 金子 典代
出版者
日本公衆衛生学会
雑誌
日本公衆衛生雑誌 (ISSN:05461766)
巻号頁・発行日
vol.62, no.11, pp.684-693, 2015 (Released:2015-12-09)
参考文献数
28
被引用文献数
3

目的 愛知県に在住するスペイン語圏の南米地域出身者におけるスペイン語対応の医療機関についての情報行動の実態を把握し,その情報行動に関連する要因を明らかにする。方法 調査対象は,日本に 3 か月以上在住し愛知県に居住する,来日してから病気やケガで受診経験のある18歳以上のスペイン語圏の南米地域出身者とした。スペイン語による無記名自記式質問紙調査を2010年 4 月から 7 月に実施した。分析対象者245人(有効回答率58.9%)の情報行動を分析するにあたり,Wilsonの情報行動モデルを参考にした。東海地方にあるスペイン語対応の医療機関を探した群(以下,探索群)と探さなかった群(非探索群)を目的変数とし,回答者本人の「スペイン語対応の医療機関が必要になった経験」,「スペイン語対応の医療機関の認知」,「認知後にスペイン語対応の医療機関を受診した経験」,「情報入手先」,そして情報行動に関連すると思われる因子として基本属性,生活状況,日本語能力等との関連をみた。結果 分析対象者245人の性別内訳は,男性が106人(43.3%),女性が139人(56.7%)であった。平均年齢は39.6歳(標準偏差±11.2歳)で,国籍はペルーが84.5%を占めた。日本での在住年数は平均11.0年(±5.7年)で,愛知県での居住年数は5~9年(34.3%)が最も多かった。探索群は165人(67.3%),非探索群は80人(32.7%)であった。スペイン語対応の医療機関の探索は,病気やケガでの受診時に医療通訳など母国語対応を必要とした経験,東海地方における母国語対応の医療機関の認知,認知後に受診した経験,日本での在住年数,日本語能力,普段使用する言語と有意な関連があった。結論 スペイン語圏の南米地域出身者におけるスペイン語対応の医療機関に関する情報行動は,これまでに日本の医療機関でスペイン語通訳などの支援が必要になった経験が情報探索の動機となっていた。日本語によるコミュニケーションの困難,母国語の普段使用,短い在住年数がスペイン語対応の医療機関の情報探索に関連がみられた。スペイン語メディアを使い,家族や友人,職場の同僚といった身近な人と情報共有がなされていたと推察された一方で,自治体や公的機関発信の情報は届いているとは言えない状況にあり,医療に関する情報提供の在り方が課題として浮き彫りとなった。