著者
高崎 憲博 村上 忠洋 山中 主範 小林 道生(OT)
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 リハビリテーションの目標は対象者の生活機能の向上であるが、生活期(維持期)における重度障害者に対しては、介助者の負担を軽減することもその目標の一つと考える。我々はこの身体的な負担の程度を介助者の主観により段階づけする基準を作成し、これを身体的介助負担度の検査として臨床で用いている。本研究の目的は、移乗動作の介助においてこの主観的な身体的介助負担度と、その際の介助者の腰部脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討することである。【方法】 1名の作業療法士(以下、介助者)に、老人保健施設に入所中で、機能的自立度評価表のベッド・椅子・車椅子移乗の項目が5点以下の者(以下、被介助者)17名(男性2名、女性15名)のベッドと車椅子間の移乗動作の介助を行わせた。その際の介助者の身体的介助負担度(以下、介助負担度)と腰部の筋活動量を測定した。介助負担度の判定は、「0:身体的な負担を全く感じない」「1:すこしの身体的な負担を感じる」「2:中等度の身体的な負担を感じる」「3:かなり身体的な負担を感じる」「4:非常に身体的な負担を感じる」の5段階とし、移乗介助をした後に介助者が行った。筋活動量の測定は、表面筋電計(Noraxon社製)を使用し、左右のL3レベルの腰部脊柱起立筋(以下、脊柱起立筋)から活動電位を導出した。ベッドと車椅子の座面に設置した圧感知センサーの信号を用いて、被介助者の殿部がベッドから離れ車椅子の座面に着くまで、および殿部が車椅子の座面から離れベッドに着くまでの区間を確認し、この区間における単位時間あたりの積分値を算出した。統計処理は、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量の関係をスピアマンの順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】 介助負担度が1であった3名の介助時における脊柱起立筋の積分値の中央値は132.5μV(最小96.1μV~最大158.1μV)であった。介助負担度の2であった7名の積分値の中央値は211.1μV(144.1μV~249.2μV)で、3であった7名の積分値の中央値は222.9μV(189μV~283.7μV)であった。介助負担度と脊柱起立筋との間には正の相関関係(r=0.56, p=0.019)を認めた。【考察】 今回使用した介助負担度は、ADL評価が全介助であってもその負担度を詳細に段階づけられるのが特徴で、重度障害者のリハビリテーションの効果を判定する検査法として有用と考えている。しかしながら、主観的な検査法でありその妥当性に疑問があり、今回、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討した。その結果、移乗介助での脊柱起立筋の筋活動が高くなるにつれ、主観的な介助負担度も高くなっていた。したがって、身体的介助負担度の検査を用いることで、移乗介助時の負担の程度を適正に捉えることができると考える。【まとめ】 今回、移乗介助において介助者の介助負担度と脊柱起立筋の筋活動を検討し、それらの関係を認めた。身体的負担度の検査を用いることで、介助者の身体的な負担の程度を適正に捉えることが可能で、リハビリテーションの効果判定の指標になると考える。