著者
海野 光信 村上 忠洋 畑迫 茂樹 佐々木 友也 千邑 彰人
出版者
理学療法科学学会
雑誌
理学療法科学 (ISSN:13411667)
巻号頁・発行日
vol.30, no.3, pp.449-452, 2015 (Released:2015-07-07)
参考文献数
17

〔目的〕脳卒中片麻痺患者における体幹側屈筋力の左右差に股関節周囲筋の麻痺が影響するか否かを明らかにする.〔対象と方法〕初発脳卒中片麻痺患者9名を対象に,端座位で麻痺側と非麻痺側方向への等尺性体幹側屈筋力を「骨盤固定なし」と「骨盤固定あり」で測定し,麻痺側と非麻痺側で比較した.〔結果〕「骨盤固定なし」では麻痺側筋力が非麻痺側筋力に比べ有意に低下し,股関節周囲筋の麻痺が重度な者ほどその傾向が強かった.「骨盤固定あり」では左右差はみられなかった.〔結語〕脳卒中片麻痺患者における体幹筋力の左右差は骨盤の固定に働く股関節周囲筋の麻痺の影響により出現し,骨盤を他動的に固定しこの影響を小さくすることで左右差がなくなると考える.
著者
村上 忠洋 横地 由大 中野 隆
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.42 Suppl. No.2 (第50回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.1742, 2015 (Released:2015-04-30)

【はじめに,目的】虚弱高齢者は立位姿勢を保持する際,バランス能力の低下を代償するために足趾を屈曲し,床面を圧迫して姿勢制御を行っていることが報告されている。これにより,しばしば第2-5趾に近位趾節間(PIP)関節が屈曲位,遠位趾節間(DIP)関節が過伸展位のいわゆるハンマー趾を認めることがある。今回,このハンマー趾の発生に,長趾屈筋(FDL)あるいは短趾屈筋(FDB)のどちらの活動が影響するかを確認するため,解剖実習体を用いてそれぞれの腱を牽引し,機能解剖学的に検討したので報告する。【方法】研究・教育用に供された解剖実習体5体を対象とし,両側の足趾部を剥皮後,第3趾を足根中足関節において離断した。FDL腱とFDB腱および中足趾節(MP)関節,PIP関節,DIP関節の関節包を温存し,それ以外の軟部組織を除去した。5体10趾のうち,DIP関節の可動性が欠如していた1趾を除く9趾を用いて分析を行った。中足骨の近位部より髄腔内に挿入した直径3mmの鋼線を,器具に取り付け中足骨を固定した。バネばかりを用い0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfの力を加え,FDL腱とFDB腱をそれぞれ牽引した。この際,立位姿勢を想定して足趾底側面を台に接地した「接地条件」と,接地しない「非接地条件」で腱の牽引を行った。MP関節,PIP関節,DIP関節の関節角度を計測するため,牽引時および非牽引時において,側面よりデジタルカメラを用いて撮影を行った。その画像をもとに画像処理ソフト「ImageJ(米国国立衛生研究所)」を用い,各関節の角度を計測した。関節角度は,非牽引時を基準(0°)とし,牽引時の角度変化を求めた。なお,屈曲方向への変化をプラス,伸展方向への変化をマイナスで表した。【結果】「非接地条件」においてFDL腱を0.5kgf,1kgf,1.5kgf,2kgfで牽引した場合,基準からの平均角度変化はMP関節では6.9°,22.9°,27.6°,31.8°,PIP関節では18.7°,25.8°,31.7°,34.8°,DIP関節では12.5°,15.4°,16.2°,17.8°であった。いずれの関節も牽引力の増加に伴い屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では16.9°,22.9°,27.4°,32.5°,PIP関節では13.7°,21.3°,26.3°,29.5°と屈曲角度が増大した。DIP関節では-0.4°,-1.2°,-1.6°,-2.2°とほとんど変化を認めなかった。「接地条件」においてFDL腱を牽引した場合,MP関節では-2.2°,-4.3°,-5.3°,-6.7°とわずかに伸展した。PIP関節では7.7°,10.5°,12.9°,15.6°,DIP関節では7.9°,11.1°,13.8°13.9°と,ともに屈曲角度が増大した。FDB腱を牽引した場合,MP関節では1.6°,1.1°,1.1°,0.0°とほとんど変化を認めなかった。PIP関節では7.0°,10.9°,14.2°,14.1°と屈曲角度が増大し,DIP関節では-4.5°,-8.7°,-11.3°,-14.3°と伸展角度が増大した。【考察】虚弱高齢者で立位姿勢を保持する際にしばしば認めるハンマー趾は,足趾屈筋群の活動により足趾を床に圧しつけて姿勢制御を行っているためと考えられる。末節骨底部に付着するFDLの主要な作用は,DIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節やPIP関節の屈曲に関与する。中節骨底部に付着するFDBの主要な作用は,PIP関節の屈曲であり,補助的にMP関節の屈曲に関与する。両筋とも,ハンマー趾の特徴であるDIP関節の伸展作用は有していない。しかしながら,足趾が床面に接地した「接地条件」においてFDB腱を牽引した場合,PIP関節の屈曲によって足趾先端部が床に固定される。さらにPIP関節の屈曲に伴う中節骨の傾斜によってDIP関節は受動的に伸展される。したがって虚弱高齢者のハンマー趾は,バランス能力の低下を代償するために,FDBの活動が過剰になっていることがその発生機序の一要因と考えられる。【理学療法学研究としての意義】足趾屈曲変形は,足趾の胼胝や鶏眼を生じ,疼痛の原因になり,歩行能力の低下や転倒のリスクを高めることが報告されている。こうした症例に対して理学療法を行う上では,足趾屈曲変形の原因を究明することが重要である。今回の研究では,ご遺体を用いたFDL腱とFDB腱の牽引実験により,足趾屈曲変形の一要因を解明することができた。
著者
高崎 憲博 村上 忠洋 山中 主範 小林 道生(OT)
出版者
東海北陸理学療法学術大会
雑誌
東海北陸理学療法学術大会誌 第28回東海北陸理学療法学術大会
巻号頁・発行日
pp.83, 2012 (Released:2013-01-10)

【目的】 リハビリテーションの目標は対象者の生活機能の向上であるが、生活期(維持期)における重度障害者に対しては、介助者の負担を軽減することもその目標の一つと考える。我々はこの身体的な負担の程度を介助者の主観により段階づけする基準を作成し、これを身体的介助負担度の検査として臨床で用いている。本研究の目的は、移乗動作の介助においてこの主観的な身体的介助負担度と、その際の介助者の腰部脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討することである。【方法】 1名の作業療法士(以下、介助者)に、老人保健施設に入所中で、機能的自立度評価表のベッド・椅子・車椅子移乗の項目が5点以下の者(以下、被介助者)17名(男性2名、女性15名)のベッドと車椅子間の移乗動作の介助を行わせた。その際の介助者の身体的介助負担度(以下、介助負担度)と腰部の筋活動量を測定した。介助負担度の判定は、「0:身体的な負担を全く感じない」「1:すこしの身体的な負担を感じる」「2:中等度の身体的な負担を感じる」「3:かなり身体的な負担を感じる」「4:非常に身体的な負担を感じる」の5段階とし、移乗介助をした後に介助者が行った。筋活動量の測定は、表面筋電計(Noraxon社製)を使用し、左右のL3レベルの腰部脊柱起立筋(以下、脊柱起立筋)から活動電位を導出した。ベッドと車椅子の座面に設置した圧感知センサーの信号を用いて、被介助者の殿部がベッドから離れ車椅子の座面に着くまで、および殿部が車椅子の座面から離れベッドに着くまでの区間を確認し、この区間における単位時間あたりの積分値を算出した。統計処理は、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量の関係をスピアマンの順位相関係数を用い、有意水準は5%未満とした。【結果】 介助負担度が1であった3名の介助時における脊柱起立筋の積分値の中央値は132.5μV(最小96.1μV~最大158.1μV)であった。介助負担度の2であった7名の積分値の中央値は211.1μV(144.1μV~249.2μV)で、3であった7名の積分値の中央値は222.9μV(189μV~283.7μV)であった。介助負担度と脊柱起立筋との間には正の相関関係(r=0.56, p=0.019)を認めた。【考察】 今回使用した介助負担度は、ADL評価が全介助であってもその負担度を詳細に段階づけられるのが特徴で、重度障害者のリハビリテーションの効果を判定する検査法として有用と考えている。しかしながら、主観的な検査法でありその妥当性に疑問があり、今回、介助負担度と脊柱起立筋の筋活動量との関係を検討した。その結果、移乗介助での脊柱起立筋の筋活動が高くなるにつれ、主観的な介助負担度も高くなっていた。したがって、身体的介助負担度の検査を用いることで、移乗介助時の負担の程度を適正に捉えることができると考える。【まとめ】 今回、移乗介助において介助者の介助負担度と脊柱起立筋の筋活動を検討し、それらの関係を認めた。身体的負担度の検査を用いることで、介助者の身体的な負担の程度を適正に捉えることが可能で、リハビリテーションの効果判定の指標になると考える。