著者
森下 將史 高木 丈夫
出版者
筑波大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
2001

グラファイト上吸着ヘリウム3薄膜吸着第1原子層の固相は2次元量子スピン系のモデル物質を与える。この系の磁性は多体交換相互作用の競合により支配されるが、その詳細は不明であった。本研究では、吸着ポテンシャルのcorrugationが重要な役割を演じていると考え、経路積分モンテカルロシミュレーションによる吸着エネルギーの計算に基づいて吸着構造相図を求めた。最も低面密度の固相である√<3>×√<3>相から面密度の増大に伴い、striped domain wall構造、honeycomb domain wall構造、honeycomb cage構造、incommensurate構造へと、2次構造相転移により次々と移行する。この吸着構造相図は、様々な実験事実を定性的にではあるが、非常によく説明できるものである。特に、最大の謎であった、突然の反強磁性-強磁性転移は、commensurate構造からincommensurate構造へのC-IC転移による多体交換相互作用の競合の変化の結果として説明される。一方、この系の比熱を交換相互作用の大きさと同じの100μK程度の低温まで測定し、広い面密度領域に渡り、2桁以上の広い温度範囲でほぼ温度に反比例する依存性を観測した。局在スピン系の高温比熱は温度の自乗に反比例することが期待され、観測された比熱は異常なものである。この異常なべきの正常値からのずれは、多体交換相互作用の競合の強さを反映したfrustration parameterであると考えられる。観測された比熱のべきは複雑な面密度依存性を示すが、これも本研究により提案された構造相図により説明できる。また、√<3>×√<3>相より低面密度領域で競合が弱まること、流体相の比熱の寄与は観測されず、spin polaronの比熱と考えられるbumpが観測されたことは、これまで直接的証拠が得られていない零点空孔子の存在を強く示唆する。