著者
高木 佳奈
出版者
東京外国語大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2013-04-01

アルゼンチン、メキシコ、米国で活躍した日系二世アーティストの酒井和也について、博士論文の執筆を進めた。酒井は画家、翻訳家として知られている他、オクタビオ・パスの雑誌『プルラル』(Plural)の編集長を務めたり、ラジオで音楽番組を担当したりと、様々な分野で業績を残した人物である。今年度はブエノスアイレス、メキシコシティ、ダラスにて、インタビューや資料収集を行った。また、酒井と親交のあったドナルド・キーン氏にインタビューを行い、日本文学研究者としての酒井の業績について、話を聞くことが出来た。これまでの研究成果については、ブエノスアイレスのホルヘ・ルイス・ボルヘス国際財団にて口頭発表を行った他、日本ラテンアメリカ学会の『ラテンアメリカ研究年報』に論文を投稿し、掲載が決定した。論文ではアルゼンチン時代の酒井の翻訳業を分析し、日本文学がほとんど知られていなかった1950年代のアルゼンチンにおいて、酒井がどのような意図を持って作品を選択、紹介したかを考察した。日本では酒井についてほとんど知られていないが、ラテンアメリカにおける日本文学研究に大きく貢献し、画家としても現地の芸術運動の中心で活躍した人物である。特に翻訳に関しては、古典文学から芥川龍之介、三島由紀夫、安部公房まで幅広く翻訳しており、日本文学がスペイン語でも広く読まれるに至った土台を築いたといえる。酒井の業績を再評価することは、ラテンアメリカと日本の文化交流史を再考する上で意義のある研究となるだろう。