- 著者
-
鈴木 美加
- 出版者
- 東京外国語大学
- 雑誌
- 基盤研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 2004
読解は大変複雑な過程を経て行われ、読解の成否を左右する要因についてはまだ解明されるべき点が多い。その過程ではトップダウン処理、ボトムアップ処理が同時に並行して、また相補的に行われているとされる。2006〜2008年度には読解に含まれる言語要素の処理の自動化と、学習者の読解時の意味処理過程の分析を中心に、研究を行った。読解に大きく影響を与える「語」とその意味に関する知識についての分析と、その拡充のための教材作成、効果の分析を行った。1)読解中の語彙処理を促す教材を作成、改良を行い、読解トレーニングの授業で学習者合計142名(2005、2006年度)に使用した。2005年度のアンケート(学習者71名)の結果から、本教材を含む読解トレーニングの教材、授業ともに9割の学習者から役に立つという回答を得た。自由記述の欄で、本教材の有用性が多くの学習者によって指摘された。2)意味的に関連する語や言語要素を結びつけて処理する練習において、学習者による語の結びつけの傾向を調べた。その結果、以下の処理を行っている場合があり、このような時、語の知識が不十分なために文章の理解につながらない原因となると言える。・既習の似た意味を持つ語に影響されたと推測される処理(例 学習対象語「戒めて」-誤った結びつき語「平気で」:「落ち着いて」等の意味と混同か)・対象語あるいは結びつけ語と同じ漢字を使用する既習語の意味をもとにした処理(例学習対象語「昨夜」-誤った結びっき語「夕焼け」:「夕べ」の意味と混同しただろう)また、文章に含まれる未知語や句・節の省略箇所の処理について、アイカメラを使用し、学習者の読みを分析した。未知語が含まれる文章を読む際、その語の初出の時には、意味処理に長い時間がかかるが、2回目以降の処理には、初出に要した時間の約3分の1の時間で処理をしていた。さらに、学習者の文章読解時間と理解度の分析から、文章中に省略が含まれる箇所で読み時間が長くなる場合と長くならない場合があることがわかった。これは、語の知識及び文章の理解度(読みのコントロール可能度)との関連が推測される。