著者
高木 美也子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.44-51, 2009
参考文献数
12
被引用文献数
2

ヒトの脳内神経回路網の一部を植込み電極と体内埋設型刺激デバイスで刺激する脳深部刺激療法(DBS)により、不随意運動など多くの脳機能障害が劇的に改善されることから、日本でもこの治療を受ける患者が年々増加している。近年、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に対してもDBSの効果が報告され、ドイツ、フランス、ベルギー、USA、カナダ等で治療として医学的な実験(治験)が開始されている。しかしながらDBSは脳内の神経回路網に組み込まれた刺激デバイスが脳機能を改変する危険性を孕んでおり、特に精神疾患ではその影響が大きいと考えられる。欧米では、治験をどのような安全基準で行なっているのか。ここでは、2008年1月にドイツ、フランスで行なった調査を踏まえ、精神疾患に対するDBS治療の安全性や適用範囲、患者の選択基準、人格に与える影響や社会的な懸念、さらには過去に精神疾患治療に使われたロボトミー手術などから倫理面を考察した。
著者
高木 美也子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.19, no.1, pp.44-51, 2009-09-22 (Released:2017-04-27)
参考文献数
12
被引用文献数
1

ヒトの脳内神経回路網の一部を植込み電極と体内埋設型刺激デバイスで刺激する脳深部刺激療法(DBS)により、不随意運動など多くの脳機能障害が劇的に改善されることから、日本でもこの治療を受ける患者が年々増加している。近年、うつ病や強迫性障害などの精神疾患に対してもDBSの効果が報告され、ドイツ、フランス、ベルギー、USA、カナダ等で治療として医学的な実験(治験)が開始されている。しかしながらDBSは脳内の神経回路網に組み込まれた刺激デバイスが脳機能を改変する危険性を孕んでおり、特に精神疾患ではその影響が大きいと考えられる。欧米では、治験をどのような安全基準で行なっているのか。ここでは、2008年1月にドイツ、フランスで行なった調査を踏まえ、精神疾患に対するDBS治療の安全性や適用範囲、患者の選択基準、人格に与える影響や社会的な懸念、さらには過去に精神疾患治療に使われたロボトミー手術などから倫理面を考察した。
著者
高木 美也子
出版者
日本生命倫理学会
雑誌
生命倫理 (ISSN:13434063)
巻号頁・発行日
vol.14, no.1, pp.47-51, 2004-09-17

ES細胞とは生体を構成するあらゆる組織・器官に分化する能力を持つ細胞のことであり、アメリカ、ウィスコンシン大学のJ.A.トムソンらは、1998年11月、ヒト胚から初めてES細胞を樹立した。ES細胞は新規の医療に結びつくものとして大いに期待される反面、不妊治療のために作られ凍結保存されているヒト受精胚(余剰胚)から採取されるため、生命の源を壊すという倫理問題が存在する。この問題の本質は、ヒト胚の潜在性をどのように捉えるかであろう。反対する人は、ヒト胚はまだ人間の状態ではなくても、人となる潜在性を持っており、それを遂行する権利があると主張する。しかしながら人になる潜在性とは、ヒト胚が人にまで成長することを、賦与するものではないと考える。文部科学省では、現在、特定胚及びヒトES細胞研究専門委員会において、各研究機関から提出された樹立計画及び使用計画を審査している。私もその一委員として関わっており、審査で問題になった点等も考察した。さらにヒトES細胞研究では、文化的・宗教的な背景が大きく影響してくる。日本では、ヒト胚を壊してES細胞を樹立するという問題に、国民からのそれほど強い反対はない。反面、生命最後の部分では拘っており、国民的総意として心臓死しか受け入れられない。これが脳死問題である。日本は文化的にも、脳死体からの臓器、組織提供の医療ではなく、移植用材料を作り出すES研究に向かわざるを得ないのではないか。