著者
大橋 和彦 高木 道浩 杉本 千尋 小沼 操
出版者
北海道大学
雑誌
基盤研究(B)
巻号頁・発行日
2001

ウイルス、細菌などの病原体には標的細胞への吸着の際、細胞表面糖鎖をレセプターとして利用しているものが多く、このようなレセプターをワクチンなどに利用すれば、株間で抗原性が異なる病原体に対しても広く有効な防除法を開発することが可能になる。そこで感染症防除のためにこれらの糖鎖を擬態できるようなペプチドを探索・同定し分子擬態利用法を開発するため、ウイルス(NDV)をモデルとしてNDVレセプター構造を分子構造的に模倣するレセプター擬態ペプチド分子を探索し、そのNDV感染に対する防御能を検討した。NDVヘマグルチニン-ノイラミニダーゼ(HN)抗原を標的として特異的に結合するペプチド分子をランダムペプチドライブラリー(6mer〜8merのペプチドを含む)よりファージディスプレイ法とバイオパンニング法により探索した。その結果、NDV HN抗原に対して特異的結合性を示す3種類のファージクローンが得られた。得られたクローンの塩基配列・アミノ酸残基を解析した結果、EVSHPKVG、WVTTSNQW、SGGSNRSPの3種類のアミノ酸配列が擬態分子として同定された。さらに各ファージクローンのNDV特異的結合能は、抗NDVニワトリ抗血清を利用したELISA競合阻止試験によっても確認された。次にこれらの各ファージクローンより予想されたアミノ酸配列をもとに合成ペプチドを作製し、NDV粒子に対する結合能や感染防御能を解析した。3種類の合成ペプチドはNDVによる赤血球凝集活性を阻止できなかった。しかしながら、ウイルス中和試験の結果、これらのペプチドが部分的にNDVの感染を中和できることが示された。今後、これらのペプチドが結合するNDV粒子状の分子を明らかにするとともに、そのアミノ酸配列をもとに、よりNDV感染阻止能力の高いアミノ酸配列を模索し、in vivoにおける効果を検討することが、臨床応用に向けて必要となる。