著者
石川 智昭 神沢 信行 高柳 友子 三浦 靖史
出版者
JAPANESE PHYSICAL THERAPY ASSOCIATION
雑誌
日本理学療法学術大会
巻号頁・発行日
vol.2012, pp.48101833-48101833, 2013

【背景】 国内での介助犬は90年代初めに誕生した。当時は介助犬に関する法律はなく、一般家庭のペットと同じ扱いであったため、介助犬使用者(以下、使用者)が外出時に入店拒否や公共交通機関の乗車拒否を多く経験し、介助犬の存在が反って使用者の外出時の障害になっていた。そのような状況を改善するために、2002年に身体障害者補助犬の育成や利用円滑化の促進を目的とした身体障害者補助犬法が制定され、盲導犬に加えて介助犬と聴導犬が法律で認められた。また2007年に改訂され、相談窓口の設置と従業員56人以上の民間企業の補助犬受け入れが義務化された。さらに育成に関しては、2009年に国内初の介助犬総合訓練センターが愛知県に開設され、ハード面における環境整備は進んでいる。 しかし、介助犬実働数は2012年11月時点で61頭に留まっている。この理由として、リハ専門職における介助犬の認知度が低く、リハ専門職から肢体障害者への介助犬に関する情報提供が圧倒的に少ないことも普及を妨げている一因と考えられる。【目的】 我々は第44・45回学術大会において、介助犬使用者の心理的QOLが高いことを報告し、介助犬使用が高い心理的QOLに関連している可能性を示唆した。さらに、第46回学術大会において、介助犬使用が肢体障害者に及ぼす効果について、前向き調査を5名の使用者を対象として実施し、介助犬使用が肢体障害者の心理的QOLと身体的QOLの一部を高めることを報告しているが、今回、調査人数を10名まで拡大したので報告する。【方法】 2009年1月~2012年11月に、本研究に同意の得られた介助犬使用予定の肢体障害者を対象に実施した。調査方法は使用前の1例のみ郵送で実施し、その他は直接対面してADL評価、QOL評価、不安・抑うつ評価を調査した。調査項目は、functional independence measure (FIM)、Barthel Index (BI)、instrumental activities of daily living (IADL)、MOS 36 Item Short Form Health Survey version2 (SF-36v2)、sickness impact profile (SIP)、state trait anxiety index (STAI)、self-ratingpdepression (SDS)を実施した。統計解析はウィルコクソン符号順位和検定を用い、有意水準は5%未満とした。【倫理的配慮、説明と同意】 本研究はヘルシンキ宣言に則り、必要な倫理的配慮を十分に行った上で同意の得られた介助犬使用予定者を対象とした。【結果】 調査対象は肢体障害者10名(性別:男性4名、女性6名)、年齢は44.9±15歳(23-68歳)、疾患は、頸髄損傷2、胸髄損傷1、脳出血1、ミエロパチー1、アミロイドポリニューロパシー1、脊髄係留症候群1、筋ジストロフィー1、脳性麻痺1、線維筋痛症1に、介助犬使用者認定前の5.0±5.7ヶ月と認定後の9.0±5.5ヶ月の時点に実施した。ADL評価は、BI、FIM、IADL共に変化を認めなかった。QOL評価の変化は、SF-36v2では、身体機能Δ7.74点(p<0.05)、日常役割機能Δ4.77点(p=0.31)、体の痛みΔ4.11点(p=0.20)、全体的健康感Δ4.56点(p=0.13)、活力Δ3.99点(p=0.15)、社会生活機能Δ7.89点(p=0.09)、日常役割機能(精神)Δ10.20点(p=0.059)、心の健康Δ9.30点(p<0.05)であった。 SIP(低値ほどQOLが高い)では、全体得点はΔ-8.27点(p<0.05)、身体領域得点はΔ-11.96点(p<0.05)、心理社会領域得点はΔ-6.59点(p=0.18)、独立領域得点はΔ-5.78点(p=0.16)であった。有意な改善を示したのは、SIP各項目では、身体領域のうち、可動性Δ-18.31点(p<0.05)、移動Δ-24.71点(p<0.05)、心理社会領域のうち、社会との関わりΔ-10.73点(p<0.05)であった。統計学上、有意でなかったが改善傾向を示したのは、心理社会領域の情緒Δ-14.39点(p=0.08)であった。 介助犬使用前におけるSTAI状態不安は39.05±8.96、STAI特性不安は41.75±9.70、SDSは42.10±9.10で、使用前から不安や抑うつはから認めず、認定後も同様であった。【考察】 介助犬使用介入前後の比較結果から、介助犬使用は、心理的QOLと肢体障害者の移動や可動性などの身体的QOLを向上させること、さらには社会的QOLである社会相互性も向上させることが明らかになった。肢体障害者の身体的QOLが改善することで、行動範囲が拡大し外出の機会が増え、人との関わりが増えることが社会的QOLの改善の理由として考えられた。これらの結果より、介助犬使用は、肢体障害者の社会参加に寄与することが示唆された。【まとめ】 介助犬の使用は、肢体障害者の身体的QOLと心理的QOL、更には社会的QOLの改善に寄与する。【理学療法学研究としての意義】 肢体障害者のQOL向上の一手段として、介助犬の有用性に関するエビデンスを確立することにより、リハ専門職の介助犬に対する認知度を向上させ、さらに介助犬の普及を促進するために、極めて重要な研究である。
著者
白田 剛 高柳 友子 水上 言 佐藤 江利子 石垣 千秋
出版者
日本身体障害者補助犬学会
雑誌
日本補助犬科学研究 (ISSN:18818978)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.38-45, 2007-07-01 (Released:2007-10-12)
参考文献数
3
被引用文献数
1 3

目的 : 良質な介助犬を安定的に育成するためには、使用者の障害・疾患ごとにどのような費用がどの程度発生するのかの予測は重要である。本研究は、介助犬にかかる費用の使用者の障害・疾患別の推計を目的とする。方法 : 胸腰髄損傷、頚髄損傷、リウマチの3つの障害・疾患について、それぞれモデルケースを設定し、介助犬訓練事業者を対象としたアンケート調査および聞き取り調査をもとに、介助犬の一生にかかる費用項目を積算し、推計した。結果 : 各モデルケースごとの介助犬の一生にかかる費用は、胸腰髄損傷 : 約388万円~458万円、頚髄損傷 : 約411万円~481万円、リウマチ : 約470万円~539万円と推計された (非適性犬にかかった費用を含まない)。考察 : 障害・疾患によって費用が変化する要因としては、訓練期間の長期化、自助具の作成費用、継続指導の頻度の相違などがあげられる。今後、使用者のニーズごとの訓練メニューを整備していくことが重要になると考えられる。