著者
高橋 いず美 青山 誠 佐々木 亮介 小林 万里子 中山 紀子 山崎 彰久 天満 美希
出版者
公益社団法人 日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement Vol.31 Suppl. No.2 (第39回日本理学療法学術大会 抄録集)
巻号頁・発行日
pp.A0892, 2004 (Released:2004-04-23)

【はじめに】我々、理学療法士(以下PT)が臨床場面で筋力を測定する方法として、現在では徒手筋力検査法(以下MMT)が使用されることが多い。MMTの判定には主観的要素が含まれているため、的確な判断には熟練を要するとされている。これまでMMTの検者間信頼性を検討した研究がなされ、高い信頼性が得られたとする報告も多い。しかし、足関節底屈(腓腹筋)の測定は徒手による抵抗ではないうえに、上肢による免荷がどれだけか、どこまでバランスの崩れを許すのかといった判断が検者の主観的なものであり、純粋に腓腹筋筋力を検査しているとは言い難く、特に3(fair)以上の判定においての信頼性に疑問が残る。そこで今回は、MMTにおける足関節底屈筋力(腓腹筋筋力)の測定について、検者間信頼性を検討することを目的に調査した。【対象と方法】被検者は下肢に既往歴のない成人14名(男性6名、女性8名)、平均年齢59.3±9.8(50~87)歳とした。検者は経験年数5年以上の理学療法士(以下PT)3名(男性2名、女性1名)、平均経験年数9.6年とした。3名の検者は各被検者に対し、MMT第6版で規定された方法に準じ、左右の腓腹筋の筋力を測定した。測定した結果は3名の検者間では知らせず、3回の測定は少なくとも30分間以上の間隔をあけて実施した。検者間信頼性は分散分析を用い、危険率5%を有意水準とした。【結果】被検者全員の足関節底屈筋力はすべてMMTで3以上であった。3名のPT間で、MMTの結果が左右とも一致した人数は14名中3名(21.4%)で、左右のどちらかだけ結果が一致したのは28脚中8脚(28.6%)であった。また結果が一致していたのは、すべてMMTで5レベルと判断された被検者(脚)であった。95%信頼区間による検定では、右足がF1=3.36、左足はF1=8.32となり、左右ともに検者間信頼性はなかった。【考察】今回の研究では検者3名、被検者14名と少数であったが、一般に経験があるとされる経験年数5年以上のPTにおいても、検者による測定結果のばらつきがみられたことは、腓腹筋に対してのMMTの測定は、検討の余地がある事項であると考えられる。今回ばらつきがみられた要因としては、踵を持ち上げる高さ、バランスをとる程度とされる上肢による支持、正しい形を崩さずに行える、という点についての判断が検者により差がみられたことが挙げられる。しかし現在、MMTは簡便で誰もが行える理学療法評価の手技として、最も頻繁に実施されている検査の一つであることも事実であり、今後はより客観的で簡便な足関節底屈の測定方法の検討が必要と思われた。