- 著者
-
高橋 伸一郎
- 出版者
- 東京大学
- 雑誌
- 萌芽研究
- 巻号頁・発行日
- 2003
成長ホルモン(GH)は、インスリン様成長因子の産生を介した成長促進活性を有するが、同時にインスリン抵抗性をはじめとした種々の代謝制御活性を示し、GHの長期連用は糖尿病を誘発する可能性があるなど、臨床上問題となっている。しかし、GHによるインスリン抵抗性の発生機構は、全く明らかとなっていない。本年度、本研究では、3T3-L1脂肪細胞をGHで長時間処理後インスリン処理し、インスリンの細胞内シグナルを詳細に検討した。その結果、GH前処理により、インスリン受容体のチロシンキナーゼ活性や基質のひとつであるIRS-1のチロシンリン酸化は変化しないにも関わらず、もうひとつの受容体キナーゼ基質IRS-2のインスリン依存性チロシンリン酸化が抑制され、更に下流シグナル分子Aktのインスリン依存性活性化も抑制されることを見出した。そこで、恒常的に活性化しているAktを3T3-L1脂肪細胞に強制発現させたところ、GH前処理によるインスリン依存性糖取り込みの抑制が解除され、他の結果も併せると、GH前処理によりIRS-2を介したシグナルが抑制され、GLUT4は細胞膜に移行するのに関わらず、その糖輸送活性が阻害されていると結論された。そこで、GH前処理後のインスリン処理に応答してGLUT4に何らかの分子内修飾が起こっているか、二次元電気泳動を用いて検討したところ、GLUT4の分子内修飾は認められなかった。現在、GLUT4に結合し、GLUT4の糖輸送活性を修飾するような分子の同定を進めている。一方、ヒトGHを高発現するトランスジェニックラットより調製した脂肪細胞では、3T3-L1脂肪細胞と同様に、インスリン依存性糖取り込みの抑制が観察されたが、この糖取り込み抑制は、肝臓でのインスリンシグナルが強められ、インスリン依存性脂肪・グリコーゲン合成が増強されることで補償されることも明らかとなった。