著者
高橋 佳文 久保 武
出版者
大阪大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1999

音源定位認識機構の解明は、当初高橋によりメンフクロウの蝸牛神経核で単一神経細胞活動記録を行うことから始めた.この研究の結果、音源の認識は両耳に入った音の時間差が最適な場合蝸牛神経核ニューロンの興奮、不適当な時間差によって興奮性の低下が起こることがわかった(Saberi and Takahashi、2002).すでに従来の研究で知られているごとく、この情報は上位の中枢である下丘に到達して音源の定位認識がなされている.ヒトにおける音源定位認識機構および両耳聴効果については多くの研究がなされている.しかし、補聴器具を装用した難聴者における機構については殆ど知られていない.そこで我々は、補聴器および人工内耳を装用した高度難聴者における両耳装用効果および音源定位認識の研究を進めた.予備試験において、人工内耳単独より補聴器併用時に雑音下の聴取能の改善が認められた(井脇、久保、1999).騒音負荷の下に語音聴取能を自動的、定量的に検査するために、米国House Instituteにて開発され、欧米においては標準的検査法となっている(Hearing in Noise Test ; HINT : Nilsson and Soli,1994).我々は、難聴者のおいて両耳聴の効果を調べるためHINTの日本語版を作成した(HINT-Japanese : Shiroma et al.,2002).この検査を用いて、正面、左右のそれぞれのスピーカより、音圧の校正された言葉およびマルチトーカノイズを聞かせ、単耳聴および両耳聴時における明瞭度の差を調べた.すなわち、人工内耳単独使用(CI)の場合と、人工内耳と補聴器(CI+HA)の両耳併用の場合において、静寂時と雑音負荷時の条件で語音聴取検査を実施した.結果は、補聴器単独では、語音聴取能が0%とほとんど補聴効果が得られない症例においても両耳併用することにより人工内耳単独で得られる補聴効果よりも大きな効果が得られ、統計学的にも有意な改善が認められた(松代ら、2003).人工内耳と補聴器の両耳併用により、認知レベルでの拮抗はなく、しかも語音聴取能は改善されおり、人工内耳と補聴器の併用によっても両耳聴効果が得られることが明らかにされた.