著者
福長 将仁 高橋 幸江
出版者
福山大学
雑誌
基盤研究(C)
巻号頁・発行日
1997

地理的隔離により生物が適応進化することが知られている。本研究ではライム病ボレリアと媒介マダニが隔離状態において共進化していることを明らかにした。すなわち、北海道と長野の2地点で捕獲したマダニについてリボソームRNA遺伝子間配列(ITS2)領域とミトコンドリアリボソームRNA遺伝子塩基配列を比較、寄生ボレリアでは鞭毛蛋白遺伝子ならびに菌体表層蛋白遺伝子の塩基配列をそれぞれ比較して、2地点間における両生物種の遺伝的変化について定量的に検討した。その結果、ボレリアの鞭毛蛋白遺伝子ならびに菌体表層蛋白遺伝子の塩基配列についてそれぞれ両地域に特徴的な遺伝グループが認められ、あわせて媒介マダニのミトコンドリア遺伝子についても地域特異的な遺伝グループが存在し、両生物がそれぞれの地域に適応進化していることが裏付けられた。さらに遺伝子の変異率は、マダニのそれに比較してボレリア細菌で高く、高い変異率を持つボレリア細菌がマダニの変異進化に適応しながら変化していることが推察された。ボレリア細菌はマダニの吸血行動にともなって小型脊椎動物とマダニ体内を行き来しながら生活する生物である。このうち小型脊椎動物は種類を問わず保菌動物となることが出来るので、ボレリアの感染はマダニの性質に深く関わっていると考えられ、ボレリアの生存はマダニへの適応が必須条件となる。本研究で明らかにした事実はボレリアが変異多様化することは、地理的隔離により地域に適応進化していくマダニに適応するためであることを証明している。