- 著者
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高橋 慎也
- 出版者
- 中央大学
- 雑誌
- 一般研究(C)
- 巻号頁・発行日
- 1992
本年度は特に、80年代以降の日・米・独・墺のメッセージ・ソングのテキストに関して収集と分析を進めた。その結果、独・墺においてもこの時間のメッセージ・ソングは主としてロック系の歌手によって作成され、リーダー・マッハーと呼ばれるフォーク系の歌手の活動が著しく低下したことが明らかとなった。またメッセージの内容に関しては、環境保護・男女平等・社会的弱者の保護・反原発など、各国に共通する一般的なテーマが主流となり、その分、国毎の個別性が希薄化している傾向が見えてきた。いわゆるヒット曲とメッセージ・ソングを比較してみると、80年代のヒット曲の歌詞には物語性が乏しい点、またリズムやメロディーによって聴衆を快楽を与える点が傾向として見えてくる。つまり、ある特定のメッセージを一定の物語として表現し、聴衆の理性に訴えるというスタイルの歌が衰退し、リズムやメロディーによって聴衆の無意識に訴えて快楽を与えるというスタイルが人気を得るという傾向が、80年代には定着するのである。80年代にはメーッセージ・ソングというジャンルそのものがマイナー化し、社会的影響力を失っていったようである。こうした事実が明かになったことを踏まえて、その社会的背景を現在考察中である。断定できる段階ではないが、80年代に福祉国家が独・墺で一応の完成したことに伴う個人主義化や自己中心化の進行が、メッセージ・ソングの衰退に影響したものと考えられる。歴史的影響関係に関してみると、トゥホルスキーやケストナーおよびブレヒトに影響を受けた作品を発表してきたリーダー・マッハーの活動力が80年代には著しく低下したことが明確となった。また共時的影響関係にに関してみると、英米系のロック歌手がメッセージ・ソングのテーマを決定するという傾向が顕著となり、独・墺系のリーダー・マッハーの独自性は薄らいできていることが明かとなった。