著者
石井 健 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
一般社団法人日本森林学会
雑誌
日本森林学会誌 (ISSN:13498509)
巻号頁・発行日
vol.89, no.1, pp.53-60, 2007-02-01
被引用文献数
4 3

ブナ林の組成は日本海側と太平洋側で大きく異なり,椎樹バンクは前者においてより発達しやすい。この理由として,日本海側では積雪が野ネズミによる捕食から堅果を保護していると考えた。そこで,春先に消雪速度の異なる母樹の根元付近と根元から離れた場所において,消雪過程と稚樹の分布,および播種試験による堅果の持ち去り程度を観察した。根元周辺の消雪は他の場所よりも1カ月近く早かった。これに応じて,実生は根元周辺で少なく,離れた場所で多かった。野ネズミによる堅果の持ち去りも,根元周辺で多く発生し,残存数は離れた場所と有意な差が認められた。したがって,根元で雅樹が少ないのは,消雪が早いことで春先に堅果捕食が多くなったためと推察された。このことは,積雪は野ネズミの捕食から堅果を保護することで,ブナの更新に有利に働いていることを示唆している。したがって,日本海側でブナの更新が良好なことも,積雪の保護効果が一因ではないかと考えられる。
著者
越智 温子 小山 浩正 高橋 教夫
出版者
森林立地学会
雑誌
森林立地 (ISSN:03888673)
巻号頁・発行日
vol.51, no.1, pp.13-19, 2009-06-25 (Released:2017-04-03)
参考文献数
37
被引用文献数
1

風散布型種子であるサワグルミの種子サイズのばらつきが散布に果たす効果を調べた。サワグルミの種子重と翼荷重の平方根には正の関係があり,さらに翼荷重の平方根が小さいほど終端落下速度も低かったことから,小種子ほど落下速度が低く,潜在的な散布能力は小種子のほうが高いことが示された。そこで,野外での実際の散布時に小種子の高い散布効率は散布範囲の拡大に貢献しているか調べた。その際に行った散布のシミュレーションでは,実際の野外での風速のばらつきも考慮した。その結果,種子密度が1粒/m^2以上の範囲内に散布された種子の平均重量は散布距離の遠近に関わらずほぼ一定の値となった。さらに実測として野外で散布された種子を距離別に採取した結果も,シミュレーションと同じく散布された種子の平均重量に距離による違いが無く,種子サイズのばらつきの効果は見られなかった。シミュレーションと野外での観測データの傾向が一致したことから,散布距離へ及ぼす効果は風速のばらつきのほうが種子サイズのそれよりもはるかに大きく,種子サイズの変異が散布距離に及ぼす影響は野外では認められないことがわかった。種子サイズのばらつきの意義は散布後の定着段階に求める必要があると考えられる。