著者
若宮 香理 小林 芳彦 Acosta Tomas J. 高橋 昌志 奥田 潔
出版者
日本繁殖生物学会
雑誌
日本繁殖生物学会 講演要旨集 第103回日本繁殖生物学会大会
巻号頁・発行日
pp.69, 2010 (Released:2010-08-25)

【目的】Prostaglandins(PGs) は,生殖機能の調節に重要な役割を果たしている生理活性物質であり,多岐の作用が知られている。なかでも,PGE2は初期胚の発育環境を最適に保つ因子であることが報告されている一方で,子宮内膜から分泌される PGF2α(PGF) は胚の生存および発育を抑制し,妊娠率を低下させることが知られている。また,PGE2およびPGFはともに,受精卵の移送に重要な卵管の収縮運動に関係していると考えられている。ウシにおいて,夏期の気温上昇による暑熱ストレス (heat stress; HS) は,卵胞の発育異常による排卵障害,初期胚の死滅などを引き起こし,妊娠率を低下させることが報告されている。さらに,HSは初期胚の発育の場である卵管に影響を与え,初期胚の生存性に影響を与える可能性も考えられる。本研究では,卵管の機能に及ぼすHSの影響を明らかにするために,培養ウシ卵管上皮細胞を用いて以下の検討を行った。【方法】排卵後 0-5 日の卵管から単離した卵管上皮細胞を播種し,1)細胞接着後,培養液を交換した時間を 0 日とし,通常の培養温度(37.5℃)を control 区,39℃ (HS39) および 41℃ (HS41) をHS 処理区とした。HS 処理 1-4 日後に細胞を採取し,DNA assay により卵管上皮細胞の増殖を検討した。2) コンフルエントに達した卵管上皮細胞を control 区,HS39およびHS41で培養した。HS 処理 4,24,48 時間後の培養上清中PGE2およびPGF濃度をEIAにより測定した。なお,PGs 濃度は DNA (µg) あたりに換算した。【結果】1) Control 区と比較して HS41 で細胞増殖率が有意に低下した (P<0.05)。2) PGE2濃度は HS 処理 4 時間後に control 区と比較してHS41 で有意に減少し,PGF濃度は HS 処理 24 時間後に control 区と比較して HS39 で増加した(P<0.05)。本研究において,HS は卵管上皮細胞の増殖率を低下させ,卵管内における受精卵移送を困難にするとともに,PGE2 濃度の減少および PGF 濃度を増加することにより,初期胚の発達に悪影響を与え,繁殖率を低下させている可能性が示された。