著者
久保 純子 高橋 虎之介
出版者
公益社団法人 日本地理学会
雑誌
日本地理学会発表要旨集 2020年度日本地理学会春季学術大会
巻号頁・発行日
pp.181, 2020 (Released:2020-03-30)

1. はじめに 東京低地に位置し、隅田川と荒川に囲まれる足立区千住地区は洪水に対し脆弱な地域と考えられる。高橋は卒業研究で千住地区を対象として、避難所である小中学校の災害発生時の対応準備状況を調査していたところ、2019年10月の台風19号の接近で実際に避難所が開設され、多くの住民が避難した。このため、避難所の運営等についても事後に聞き取り調査を行った。これらをもとに千住地区の避難所に関する課題を検討した。2. 足立区千住地区の特色 足立区の人口は2019年1月時点で688,512人で、このうち千住地区の人口は76,690人である(足立区による)。国道4号線(日光街道)やJR常磐線、東武、京成、東京メトロなどが通り、中心部には北千住駅がある。 千住地区の標高は堤防を除き全域が2m以下で、東半分はゼロメートル地帯である。足立区ハザードマップによれば、千住地区は荒川が氾濫した場合(想定最大規模)、ほとんどが深さ3m以上浸水し、浸水継続期間はほぼ全域で2週間以上とされる。3. 千住地区の避難所 足立区地域防災計画(2017年)によれば、千住地区の避難所(一次避難所)は小学校6校、中学校3校の計9箇所であるが、このうち1校は現在改築中で使用できない。 ハザードマップによれば、「家屋倒壊等氾濫危険区域」に含まれる場合は避難所を開設しないことになっている。このため、避難所として使用可能なのは9校中4校で、それらも浸水のため3階以上または4階以上のみ使用可能、とされている。 区域内の9校のうち小学校3校と中学校2校を訪問し、責任者の副校長先生にインタビューを行った。その結果、5校のうち避難所開設の経験があったのは1校、収容人数はいずれも把握しておらず、備蓄倉庫は1階または2階にあり、また荒川氾濫時に避難所として使えないことを知らないという回答も2校あった。鍵の受け渡しについての取り決めが不明、という回答も1校あった。4. 2019年10月台風19号における対応 10月12日に荒川の水位上昇で区内全域に避難勧告が出された結果、区内全域で33,154人、千住地区で4,997人が避難所へ避難した。計画では避難所は4校のみであったが実際は改築中を含む9校すべて開設され、さらに高校や大学等も避難者を受け入れた(足立区による)。 2019年11月に地区内の小学校で避難所訓練があり、参加者へ当時の状況についてインタビューを行った。その結果、区の職員、町会、学校の間の連携がうまくいかなかったこと、スペースや毛布等の物資が足りなかったこと、避難者の集中のため受け入れを締め切ったこと等の問題点があげられた。5. 課題 地域防災計画における受け入れ可能人数は9校で計8,922人であるが、これは地震時を想定したもので洪水時は4校3,755人で、実際は1・2階が浸水するためさらに少なくなる。2018年の区のアンケート調査では洪水時に「近くの学校や公共施設に避難する」が21%、区外(広域)避難を答えたのは6%にすぎなかった。住民の2割としても約15,000人が避難所へ向かう計算となり、収容人数の4倍以上である。廊下や教室すべてを使用して1人あたり1m2としても全く足りず、既存の高層建物への受け入れルールを作成する必要がある。