著者
高橋 駿仁
出版者
日本宗教学会
雑誌
宗教研究 (ISSN:03873293)
巻号頁・発行日
vol.92, no.1, pp.105-129, 2018

<p>本稿の目的は、フランスの思想家ベルナール・ル・ボヴィエ・ド・フォントネルの神話論を検討し、その特異な理論が可能となった文脈を明らかにすることである。彼が自らの思想を大きく展開した十七世紀末においては、神話はただの誤謬とみられることが多く、学問の対象となることはあまりなかった。そのような時代において、彼は神話を哲学の産物だとし、積極的解釈をした。フォントネルは常に進歩し続ける「人間精神」とそれが拠り所とする「人間本性」とを想定し、既知のものから未知のものを想像するという本性を人間に想定し、神話もその原理に従って作られたと考えた。フォントネルがこのように神話を研究対象としたのは、それが人間についての理解を深めてくれると考えたからであった。フォントネルの思想からは神が追い出されており、神がすでに創造した世界における人間精神の活動を、彼は生涯一貫して追求していた。フォントネルの思想は人間のための思想であり、それは十七世紀のリベルタン的な思想と十八世紀の啓蒙思想をつなぐ重要な役割を果たしていた。</p>