著者
石井 直人 脇田 久嗣 宮崎 和城 高瀬 保孝 浅野 修 草野 一富 白戸 学
出版者
公益社団法人 日本薬理学会
雑誌
日本薬理学雑誌 (ISSN:00155691)
巻号頁・発行日
vol.144, no.4, pp.154-159, 2014 (Released:2014-10-10)
参考文献数
16

日本皮膚科学会によるとアトピー性皮膚炎(AD)の定義は「増悪と寛解を繰り返す,痒みを伴う湿疹を主病変とする慢性に経過する疾患」とされており,今なお患者数が増大する傾向にある.AD では重度な痒みを伴うことが特徴であり,既存薬では十分な痒み抑制作用が得られているとは言えず,痒みのコントロールが治療の課題の一つと考えられている.そこで改めてAD 病態を振り返り,治療薬開発の現状を纏めた.その中でphosphodiesterase 4(PDE4)阻害薬に注目し,E6005 を題材としてPDE4 阻害薬のAD 適応を目指した取り組みを紹介する.E6005 は無細胞 PDE 活性測定系において選択的なPDE4 阻害作用を示し,ヒト末梢血リンパ球・単球からのサイトカイン産生を抑制したことから,PDE4 阻害に基づくE6005 の抗炎症作用を確認できた.ハプテン誘発接触皮膚炎型マウスモデルにおいて,E6005 を連続塗布すると有意な皮膚炎抑制効果が得られ,かつ皮疹部におけるサイトカイン・接着分子の発現抑制効果が認められた.さらにAD マウスモデルであるNC/Nga マウスに E6005 を連続塗布するとAD 様皮膚炎抑制効果が得られたほか,単回塗布による即時的な掻破行動抑制効果も認められた.PDE4 阻害作用に基づく嘔吐誘発に関してキシラジン・ケタミン麻酔覚醒モデルを用いて検討したところ,E6005 は第一世代PDE4 阻害薬シロミラストと比較して嘔吐誘発性が低いことが分かり,治療濃度域の広さが認められた.E6005 は血液中で速やかに代謝され,中枢神経系への分布が非常に少ないこ とから嘔吐誘発性の低下に繋がった可能性がある.これらの結果より,E6005 は全身的暴露を最小限に抑えた局所投与型薬剤として,抗炎症作用のみならず痒み抑制作用を併せ持つアトピー性皮膚炎治療薬として期待される.