著者
中村 正久 高瀬 稔
出版者
広島大学
雑誌
一般研究(C)
巻号頁・発行日
1994

両生類の性腺分化は、組織・形態学的には、変態前、変態最盛期、あるいは変態後のいづれかの時期に起きることが知られている。本邦産のカエルに性ホルモンを投与すると種によっては機能的な性の転換(性巣⇔卵巣)が見られる。本研究は両生類の性分化に係る遺伝子を人為的に発現させ、それらの遺伝子を解析することによって哺乳類をふくめた脊椎動物の性分化のしくみを明らかにすることを目的としている。研究材料のツチガエルは性ホルモンで性が転換(雌→雄)することから、当初、ステロイドホルモンの合成及び代謝酵素が性腺分化に関与していると考え、3β-ヒドロキシデヒドロゲナーゼ5α-レダクターゼの遺伝子の単離を試みた。二つのcDNA(ヒト、ニジマス、ラット等)をプローブとしてスクリーニングを行ったところ、いくつかの陽性クローンを得たので、塩基配列を決定し、ホモロジー検索を行ったが、目的とする遺伝子ではなかった。そこで、哺乳類で性腺及び副腎の分化を支配すると考えられているAd4BP遺伝子が両生類の性腺分化においても重要であると考え、この遺伝子の単離を試みたところ、2.1kb Ad4BP全長cDNAを得た。現在、その全塩基配列の決定及び発現時期を決定している。また、テストステロン処理個体から全RNAを既に得ているので、テストステロン処理個体のAd4BP遺伝子の発現に変化があるかどうかも検討している。更に、二つのCa^<2+>結合蛋白、カルレティキュリンとカルネクシンcDNAを得、全塩基配列も決定した。この二つのCa^<2+>結合蛋白遺伝子の発現は組織によって著しく異なり、前者が分化時卵巣で強く発現するが、後者は発現しない。カルレティキュリン蛋白をカエル肝臓から精製後、マウスに免疫して抗体を作成し、カエル卵巣を用いて免疫染色を行ったところ特異的分布パターンを示したことから、カルレティキュリン蛋白が卵形成に密接に係っている可能性があること、また、カルレティキュリン遺伝子の発現はテストステロン処理個体で著しく抑制されることから、性の転換に重要な働きをしている可能性もあることが分かった。