著者
阿部 康久 林 旭佳 高瀬 雅暁
出版者
The Japan Association of Economic Geography
雑誌
経済地理学年報 (ISSN:00045683)
巻号頁・発行日
vol.65, no.1, pp.117-132, 2019-03-30 (Released:2020-03-30)
参考文献数
33
被引用文献数
2

本稿では,広汽トヨタ社を事例として日系自動車メーカーの中国市場におけるディーラーの分布と修理・メンテナンス用部品の管理体制について検討していく.調査手法として,広汽トヨタ社のあるディーラーを通じて,ディーラーの全国的な分布状況と部品物流倉庫の立地状況,修理・メンテナンス用部品のストックの状況や配送システム等についての情報を入手した.調査結果として,同社は全国に437店舗のディーラーを持つが,人口比を考慮すると,店舗の分布が沿海部に偏っており,近年,自動車の需要が高まっている内陸部への進出が遅れている.その一方で,地域別のGDP総額と店舗数の間には高い相関関係があり,同社では比較的経済規模が小さい内陸部の消費者向けに低価格な車種を販売するよりは,経済規模が大きい沿海部の大都市で高価格車を販売することを重視しているといえる.また同社において店舗数の拡大が進まない要因として,同社が重視する十分なアフターサービスを行えるディーラーを確保することが難しい点も挙げられる.同社では,ディーラーには修理・メンテナンス用部品のうち,最低でも1,500点以上をストックさせる方針を採っている.また,メンテナンス用部品を交換する際には,顧客に十分な説明と同意を得ることで顧客満足度を高めることを要請している.そのため,同社のディーラーには長期的な視点で事業を続けられる資金力が必要になるが,このようなディーラーは限られていることや,メーカーとディーラーの間での利益配分も難しい点が指摘できる.