著者
高部 直紀 升屋 勇人 梶村 恒
出版者
日本菌学会
雑誌
日本菌学会大会講演要旨集 日本菌学会第52回大会
巻号頁・発行日
pp.27, 2008 (Released:2008-07-21)

オトシブミ類は,植物の葉を裁断,巻き上げて幼虫の食料兼シェルター(揺籃)を作製し,その中に産卵する甲虫の一群である.このうちルリオトシブミ属(Euops)は,雌成虫の体内に菌類を保持,運搬するための器官(mycangia)が存在すること,産卵直後の揺籃にmycangia内の菌類と形態の類似した菌類が多く観察されることなどから,菌類と密接な関係にあると考えられている.しかし,実際に菌類を分離,同定した研究例はほとんど無く,共生菌類がどのような働きをしているのかについても未知の部分が多い.本講演では,イタドリ(Reynoutria japonica)を利用するカシルリオトシブミ(E. splendidus,以下,カシルリ)について,(1)主要な共生菌を明らかにするために,成虫および揺籃からの菌類の分離培養実験,(2)共生菌類による餌資源の質的改善の可能性を探るために,同所的にイタドリで繁殖する共生菌を持たないヒゲナガオトシブミ(Paratrachelophorus longicornis,以下,ヒゲナガ)に注目して,植物資源利用様式の種間比較調査,を行った結果を中心に紹介する.(1)の実験によって,親成虫がmycangia内に保持している優占菌は,2種のPenicillium属菌のどちらか1種であることが判明した.また,同じ菌種が揺籃に定着し,新成虫のmycangia内にも獲得されていたことから,主要な共生菌であると考えられた.なお,分子系統解析の結果,分離された2種のPenicillium属菌は系統的に近縁ではなかった.(2)の調査では,揺籃作製に利用する葉の週齢を,葉の諸形質の経時変化とあわせて追跡した.その結果,カシルリはヒゲナガが利用している葉よりも新しく,水分や窒素分を多く含む葉を選んで利用していることが明らかとなった.また,ほぼ同じ週齢の葉で作製された揺籃を用いて,摂食量と成長量の関係を査定すると,カシルリはヒゲナガよりも食物利用効率が高いことが示唆された.共生菌の存在によって,揺籃の餌資源としての質が高まっているものと推察される.