著者
持田 有希 野中 聡 津布久 健一 高野 智央 大塚 智 草野 麻里 恩田 浩一 樋口 佳子 岩部 昌平
出版者
公益社団法人日本理学療法士協会
雑誌
理学療法学Supplement (ISSN:02893770)
巻号頁・発行日
vol.2004, pp.A1107, 2005
被引用文献数
1

【はじめに】近年,高齢化する精神科の長期入院患者において,加齢や活動量の減少による身体能力の低下や転倒の発生状況に関する報告が散見される。我々は,第39回日本理学療法士学会学術大会において,当院の精神科入院患者の約3割が転倒経験者であり,転倒は高齢患者に多いことを報告した。精神科入院患者における身体能力や運動療法実施の効果に関する報告は散見されるが,精神科入院患者と同年代の健常者や一般病棟入院患者の身体能力を比較した報告はみられない。そこで今回,我々は精神科入院患者の身体能力を測定し内部疾患患者や同年代の健常者との比較を行い,若干の知見を得たので報告する。<BR>【方法】対象は当院精神科入院患者のうち病棟内を独歩している者で,平成15年4月から9月までの6ヵ月間における転倒の有無を診療録より後方視的に調査できた24例のうち,本研究の目的の説明に対して同意が得られた9例(全例男性,平均年齢60.4±9.4歳,診断名:統合失調症)とした。一般病棟入院患者(一般入院患者)における対象例は,当院に内部障害で入院し,理学療法を施行し病棟内を独歩している4例(男性3例,年齢79.0±10.1歳)とした。また健常者の対象群には複数の先行研究による同年代の健常者のデータを用いた。評価項目は,年齢,等尺性膝伸展筋力(下肢筋力),握力,10m最大歩行速度(歩行速度),開眼片脚立位保持時間(片脚立位時間)とした。なお両病棟における対象例が少ないため,統計手法は用いずに個々の症例について比較を行った。<BR>【結果】精神科入院患者9例中2例に転倒歴があり,いずれも年齢は70代であった。精神科入院患者と健常者との比較では下肢筋力,握力,歩行速度といった比較的短時間に筋力を発揮する項目において精神科入院患者の値が健常者の値を大きく下回っていたが,片脚立位時間では健常値に近似した値を示した。精神科入院患者の転倒例と一般入院患者との比較では握力,歩行速度,片脚立位時間において精神科入院患者が一般入院患者の最大値よりも高値を示した。<BR>【考察】本研究では,精神科入院患者については十分な同意が得られず測定に至らない症例が多く,一般入院患者については独歩症例が少なく十分な検討には至らなかった。しかし精神科入院患者は転倒の有無に関係なく全ての年代において健常者よりも身体能力的に劣っており,精神科入院患者の転倒例は一般入院患者と比べて評価結果が比較的良好にも関わらず転倒していた。本研究では症例数も少ないことから転倒例の身体特性は明らかにならなかったものの精神科入院患者には同年代の健常者に比べて身体能力が低い者の存在が認められ,精神科入院患者に対する理学療法の必要性が示唆されたものと思われた。
著者
野中 聡 高橋 正雄 高野 智央 和地 秀章(OTR) 弓削 幸子 高木 有希
出版者
社団法人 日本理学療法士協会関東甲信越ブロック協議会
雑誌
関東甲信越ブロック理学療法士学会 (ISSN:09169946)
巻号頁・発行日
vol.25, pp.94, 2006

【背景および目的】住環境整備の効果に関するこれまでの報告では,整備内容や使用状況に関する調査が多い。しかし,これまでに効果の検証に加えて,利用者側とサービス提供者側との問題意識の相違について検討した報告は見当たらない。そこで,本研究では利用者と提案者であるPT・OTとの問題意識の相違について明らかにし,望ましい住環境整備について検討するための資料を得ることを目的とした。<BR>【方法】対象は,平成15年1月から平成17年3月までに当院リハビリテーション科スタッフが訪問家屋調査を実施して,外出,入浴,排泄のいずれか1つ以上を対象とした住環境整備に対する助言をおこなった介護保険利用者の中で,在宅生活の継続が確認できた14名のうち,本調査への協力が得られた9名とした。主な調査内容は(1)整備の提案内容,(2)実際の整備状況,(3)住環境整備の効果(動作自立度,介護負担感,使用状況,満足度)とし,事前の訪問家屋調査報告書からの情報収集,利用者宅への訪問による整備箇所および実演動作の目視確認をおこなった。住環境整備の効果については,社団法人シルバーサービス振興会(2004)の方法を参考にした。<BR>【結果および考察】対象者は男性3例,女性6例,平均年齢71.4歳,事前調査時の要介護度は要支援および要介護1が半数以上を占めていた。外出(9例23箇所)では提案内容との一致は11箇所(47.8%)であり,上がり框や玄関外側の整地や手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人や家族の希望によるものが多かった。入浴(7例33箇所)では提案内容との一致は26箇所(78.8%)であり,シャワー椅子や浴槽内マット,バスボードや手摺りの設置等の過少整備が多く,乖離の理由は本人の判断によるものが多かった。排泄(8例14箇所)では提案内容との一致は11箇所(78.6%)であり,トイレまでの移動や出入り,立ち上がりに使用する手摺り等の過剰整備が多く,乖離の理由は本人の希望によるものが多かった。各行為により整備や乖離の状況が異なっており,過少整備では問題が未解決であることが多く,特に外出に関する玄関周辺の整備においてその傾向が強かった。また過剰整備にはPT・OTの目から見て不要と判断される整備が多く,その大部分が本人の不安感の訴えにより整備されており,経過により不使用となっていた箇所が多かった。いずれの乖離も利用者側のデマンズと提案者側が判断したニーズの不一致が主な原因と考えられた。また,使用状況や満足度は重要な評価項目ではあるが,今回の調査では動作自立度や介護負担感と関連が見られないことがあり,効果の検証には複数の指標を用いた多角的な評価が必要と思われた。