著者
高野 量
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2010

PB1-F2タンパク質発現ミュータントであるウイルスをリバースジェネティクス法により作出した.作出したウイルスのウイルス学的特徴を調べるべく,これらのウイルスをヒト腎臓由来細胞株であるHEK293細胞に感染させ,遺伝子発現量の違いをqRT-PCR法により解析した.その結果,野生型PB1-F2タンパク質を有するウイルス株は,それが短い・あるいは完全に欠損している変異株と比べて,有意にインターフェロンベータ(IFN-β)の発現を強く誘導することが判明した.一方で,感染細胞内において,PB1-F2と相互作用する宿主因子を探索すべく,PB1-F2タンパク質を強制発現した細胞において免疫沈降を行った後,LC-MS質量分析器を用いて解析を行ったところ,90個の新規宿主タンパク質が同定された.感染細胞内においてPB1-F2タンパク質と相互作用し,かつIFN-βの発現に関与するタンパク質を同定するために,PB1-F2タンパク質発現ミュータントと,野生株のインフルエンザウイルスを用いて,LC-MSで同定された宿主因子をsiRNAを用いてノックダウンさせた細胞において,それぞれのウイルスを感染させ,IFN-βの遺伝子発現量をqRT-PCR法により測定した.いずれの宿主因子をノックダウンした細胞においても,IFN-βの遺伝子発現量に大きく影響する因子は同定されなかった.これらの知見から,PB1-F2タンパク質は感染細胞内において,IFN-β誘導能を示すものの,同定されたPB1-F2と相互作用する宿主因子によって介されるIFN-βの発現誘導形態を取らないことが示唆された.先行研究から,新型インフルエンザウイルスにおいて,PB1-F2を保持する変異体が,野生株と大きな哺乳類への病原性の変化を示さないことが判明しており,PB1-F2タンパク質の宿主への病原性への寄与は大きくないことが示唆された.これらの結果から,新型豚由来HINIウイルスにおいて,PB1-F2タンパク質が,宿主応答へ大きな影響を持たないことが示され,新型ウイルスの強毒化にPB1-F2タンパク質が寄与するかという本研究の目的は達成された.