著者
桑原 史明 平手 裕市 森 俊輔 高野橋 暁 八神 啓 臼井 真人 宮田 義彌 吉川 雅治
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.4, pp.280-283, 2009-07-15 (Released:2010-04-07)
参考文献数
14
被引用文献数
2

症例は44歳,女性.不明熱の原因検索のため紹介された.血液培養でメチシリン耐性黄色ブドウ球菌(MRSA)を検出し,心臓超音波検査で大動脈弁に疣贅を認め,Duke criteriaに基づき感染性心内膜炎(IE)と診断した.バンコマイシン(VCM)とイセパマイシン(ISP)により治療を開始したが,その後も高熱が続き,皮疹も出現したため,抗生剤をテイコプラニン(TEIC)に変更したが効果が見られず,最終的には,第22病日よりリネゾリド(LZD)に変更した.LZDに変更して1週間後には解熱し,心内膜炎に伴う塞栓症による血管炎も軽快した.大動脈弁膜症による心不全を薬物療法によって管理しながらLZDを28日投与し,その時点で,その副作用と思われる貧血を認めたためLZDの投与を中止してレボフロキサシン(LVFX)の内服に変更した.感染の再燃がなく,機械弁による大動脈弁置換術を施行した.LZDは手術直前に投与し,術後も15日間継続した.その後,LVFXの経口投与に切り替えて術後35日目に退院した.退院後も1年間感染の再発がなく経過している.リネゾリドはMRSA心内膜炎の治療法の一つとして有効であると考えられるが,その投与法や投与期間に関しては,さらなる検討が必要である.
著者
吉川 雅治 川口 鎮 高野橋 暁 八神 啓 桑原 史明 平手 裕市 宮田 義弥
出版者
特定非営利活動法人 日本心臓血管外科学会
雑誌
日本心臓血管外科学会雑誌 (ISSN:02851474)
巻号頁・発行日
vol.38, no.1, pp.67-70, 2009-01-15 (Released:2010-02-08)
参考文献数
13

抗リン脂質抗体症候群を伴う全身性エリテマトーデスに血小板減少性紫斑病を合併した僧帽弁狭窄兼閉鎖不全症に対して機械弁を用いた人工弁置換術を施行した症例を経験した.症例は42歳女性.20歳時にループス腎炎の診断でステロイド治療を開始し,後に右網膜静脈分枝閉塞症を発症した際に,抗リン脂質抗体症候群と診断された.抗核抗体陽性,ループス型抗凝固因子陽性,抗カルジオリピン-β2グリコプロテインI抗体高値を示した.僧帽弁切除標本病理検査により典型的なLibman-Sacks型心内膜炎による弁変性と診断された.本症例では,抗リン脂質抗体症候群による血栓塞栓症素因と血小板減少性紫斑病による出血素因という相反する血液凝固異常が混在し,術前の病態把握,術中の出血コントロール,術後の抗凝固管理に注意を要したが,合併症なく独歩退院した.しかし術後145日後に血栓塞栓症で失った.本疾患群では弁膜病変を外科的に治療しえても,心房壁など弁尖以外の非定型的心内膜炎は再燃寛解を繰り返すことが予想され,凝固異常も永続的であるため,間断なき厳重なる抗凝固管理,主体疾患であるSLEの適切な治療が肝要であると考えられた.