著者
高鳥 翔
出版者
東京大学
雑誌
特別研究員奨励費
巻号頁・発行日
2009

γセクレターゼはアミロイド前駆体蛋白質(APP)を切断し、アルツハイマー病(AD)の発症と密接に関連したAβペプチドを産生することからADの重要な創薬標的である。APP以外にも多数の1型膜蛋白質を基質とし、特にNotchの切断は悪性腫瘍の発症に関わることから、γセクレターゼ阻害剤はADのみならず悪性腫瘍に対してその有効性が期待されている。申請者はγセクレターゼ構成因子であるニカストリン(NCT)の細胞外領域に対してモノクローナル抗体A5226Aを作出し、本抗体が活性型γセクレターゼ複合体中のNCTを特異的に認識すること、またγセクレターゼ活性阻害能を有する中和抗体であることを見出した。本研究課題では、A5226Aの抗体医薬シーズとしての有効性を検証するとともに、新規創薬標的の開発に応用することを目的に研究を遂行した。本年度においては、A5226Aによるγセクレターゼ活性の阻害機構を詳細に解析した。A5226Aはγセクレターゼと基質の結合を阻害し、同時にγセクレターゼの発現量を減少させる間接的な機序を介して基質切断を阻害することを見出した。またA5226Aはγセクレターゼ活性依存的な増殖能を示す癌細胞の増殖を抑制した。さらにin vivoにおける効果を検証するため、γセクレターゼ阻害剤に感受性の白血病細胞株をマウス末梢血中に移植したxenograftモデルを開発、確立した。また申請者はA5226Aをプローブとしてγセクレターゼの新規結合分子を探索した。RNAi条件下でAβ産生量が減少する因子を選択した結果、テトラスパニンファミリー分子のCD81を同定した。CD81はγセクレターゼと基質の細胞表面膜からの輸送に関わることを見出した。