著者
髙木 咲織
出版者
日本記号学会
雑誌
記号学研究 (ISSN:27588580)
巻号頁・発行日
vol.1, no.1, pp.37-50, 2023 (Released:2023-11-24)

記号に「指示」と「例示」という二つの働きを見出したグッドマンは、特に例示の働きを重視し、「隠喩的例示」に「表現」という特別な名を与えた。例示が重視されたのは、例示されるものが言語によっては置き換えられないものであるために「経験を再組織化」するためである。しかし、既に言語によって記述されている文学作品において、記号がどのように「経験の再組織化」を可能にするのかについては、グッドマンの説明は不十分である。本稿では、言語で記述された隠喩が「経験の再組織化」を可能にする事例を挙げ、そこでイメージというレイヤーが重要であることを見るが、それに先だって、あらゆる隠喩が何かを「表現」するわけではないことを確認するべく、表現的でない隠喩の例についても検討する。すると、イメージにおいて稠密で充満した記号システムによって読み取られる場合に、「経験の再組織化」が可能になることがわかる。このとき、記号システムは作品附随的なものではなく読者/鑑賞者付随的なものと考えるべきである。そう考えることで、グッドマンが「美的なものの兆候」として示した稠密性と充満が、彼自身が想定している以上に重要であることが明らかになる。